連載コラム

葉山考太郎の「新痛快ワイン辞典」 Vol.08 2018_03_30

葉山考太郎先生が1999年に出版した『辛口・軽口ワイン辞典』(日経BP社)の続編です。ワインに関する用語が、葉山先生特有の痛快な語り口で解説されています。今回は、「し」で始まる語をお届けします。

【見出し語について】
(1) アルファベットで始まる語はカタカナ表記で配列した。【例】AOC⇒エー・オー・シー
(2) シャトーやドメーヌが付くものは、それを除いた見出し語で収録した。【例】シャトー・ラヤス⇒ラヤス、シャトー
(3) 人名は、「姓+名」で収録した。【例】ロバート・パーカー⇒パーカー、ロバート



■し■

**しいんコーナーのほうそく(試飲コーナーの法則)
百貨店の地下ワイン売り場で行っている「恒例試飲販売」には次の法則がある。(1) 薦めているのは、必ずオバさん(通称、マネキンさん)。オジさんは、白ボージョレー同様、ほとんどゼロ。(2) そのオバさんは、必ず頭に白い三角巾を巻いている。(3) そのオバさんは、ワインの知識はあまりない。だから、新樽率や瓶熟期間がどうの言うのはムダ。それ以前に、そんなイイワインは飲ませてもらえない。(4) 飲ませてくれるのは、チリの赤が圧倒的で、他には、イタリアの赤、オーストラリアの白。(5) 「試飲した人は必ず買うこと」と思い込んでいる押し付けがましいオバさんが結構多く、スーパーでのウィンナーの試食販売と同じレベル。

シナモン (Cinnamon)
ワインの香り表現でよく使う言葉。シナモンの匂いがスカンクより嫌いな私は、テイスティング・コメントで「ブルーベリーとシナモンの華やかな香りがあり…」と書いてあると、鳥肌が立つ。悲惨だったのは、南青山で定期的なワイン会があったとき。地下鉄・表参道駅の改札の真正面にシナモン・ロールで有名なオシャレ系パン屋が立ちはだかっていたので、改札手前20mで深呼吸して息を止め、一挙に100mを走り抜けた。

シニア・ソムリエ
日本ソムリエ協会の資格。ソムリエを取得後3年以上経過し、業務経験が10年以上あると受験できる。取得者は全ソムリエ資格者の10%ほど。かつて、ソムリエの資格取得では業務経歴詐称が多く、医者、銀行員、プログラマーが受験したため、「ワイン・エキスパート」を新設。勉強熱心な人は、シニア・エキスパートを目指している。「シニア」資格は、ソムリエ協会とワイン学校の両方にオイシいビジネスだ。シニアが一通り行き渡ったら、グランド・シニア・ソムリエができると思う。

ジャイエ、ジョルジュ (Georges Jayer)
ブルゴーニュの神様、アンリ・ジャイエのお兄さん。エシェゾーに持っている畑をアンリに貸し、出来たワインの半分を小作料(専門用語で、メタイヤージュ)として受け取っていた。このエシェゾーのラベルがアンリとそっくり。自分の名前よりアンリ・ジャイエの方が大きく書いてある。「アディダス」のコピー商品に、「アディヨス」というのがあったが、それほどではないにしても、かなり紛らわしい。(関連項目:メタイヤージュ)

シャガール、マルク (Marc Chagall)
1970年のムートン・ラベルを描いたロシアの画家。天使、牛、サーカス、恋人達を好んで描いたし、人が空を飛ぶ絵が多いので、「メルヘンチックねぇ」と日本でも若い女性に大人気。故郷のロシアを追われパリに住んだためか、異邦人という屈折した心理があり、精神的に不安定だった。フランス版寺山修司という感じだが、98才とエラくご長寿。ムートンの絵は、ツグミがブドウを突つき、母親が息子にブドウを食べさせているところらしい。

シャトーもとづめ(シャトー元詰め)
作ったワインを自分でボトルに詰めること。昔、ワインは樽のままネゴシアンに売り、ネゴシアンが瓶詰めした。瓶詰め段階で、安ワインを混ぜることがあり、品質に危機感を持ったムートンのフィリップ男爵が1924年にシャトー元詰めを提唱。以降、ラフィット、ラトゥール、オー・ブリオンも同調。なぜかマルゴーは1953年まで樽売りを続けた。

シャブリジェンヌ、ラ (La Chablisienne)
文字通りの意味は、「シャブリのお嬢さん」。シャブリで一番生産量の多い生産者。実体は、共同組合。組合員数約300、シャブリ全体の1/3の畑を占有する。協同組合のワインと言うと、安いが特徴のないものが多いけど、ここはかなり信頼度が高く、評判が良い。シャブリ・ネエちゃんは、なかなかの美人なのだ。ちなみに、「そこに住む人」をフランス語で言うのは難しく、東京に住んでいる人はTokyoïte、京都人はKyotoïteになるそう。宝塚歌劇団のオネエサンをタカラジェンヌと呼ぶのはちょっと強引で、「Takarazuka + ienne」としたら、「タカラズケエンヌ」のはず。「奈良漬」みたいに聞こえるのを嫌ったか?

シャンパーニュ・スター (Champagne Star)
シャンパーニュのコルクを簡単に開けるための小道具。四枚羽根と言うか、四方手裏剣みたいな星形をしていて、コルクに嵌めて回す。固いフタを開けるときに使うスベリ止めゴム・リングと同じ原理。だから、慣れないと、やはり、ポーンと音が出る。四方手裏剣と言えば、シイタケの傘に四方手裏剣形の飾り包丁を入れるのがお約束だが、切り取った部分はどうするんだろう? 貧乏性の私にはやたらと気になる……。(関連項目:シャンパーニュ・ペンチ)

シャンパーニュ・ストッパー (champagne stopper)
コルクを抜いたシャンパーニュを保存するためのキャップ。シャンパーニュを一度開けると、コルクを打ち直して針金をかけても、翌日にはガスは抜ける。でも、シャンパーニュ・ストッパーを使えば、1週間でもガスは抜けない。1個1,000円以下なのに、これほどエラいワイン・グッズはない。

シャンパーニュ・ペンチ (Champagne Pincers)
シャンパーニュ・キーとも言う。シャンパーニュのコルクを簡単に開けるための大袈裟な道具。ペンチ型をしていて、コルクをしっかり挟んでゆっくり回す。飛び出そうとするコルクの速度をコントロールできないので、必ず、ポーンと大きな音がする。それなら、手で開けるのと変わらないので、2、3回使ったきり、埃をかぶってしまう。(関連項目:シャンパーニュ・スター)

ジャンポール・ゴルチエ・モデル (Jean-Paul Gortierre)
シャンパーニュのパイパー・エドシック社がファッション界の奇才、ゴルチエにデザインを依頼したボトル。今は生産しておらず、幻のボトル。真っ赤なビニールでボトルを包み、パックリ開いた後ろを黒いヒモで編み上げた。背中が大きく割れたドレスのオネエサンみたい。ゴルチエは、ジョン・ウィリーに影響を受け、一風変わったエロ路線を進んだ(良い子は、yahoo USAで「John Willie」を画像検索してはいけません)。マルキ・ド・サドと、ゴルチエ・モデルが2大セクシー・シャンパーニュ。なお、冷やすなら冷蔵庫で。氷水に漬けると、ドレスの中に水が入って大騒ぎになる(そんなことで騒ぐようじゃあこのシャンパーニュを飲む資格はない)。(関連項目:マルキ・ド・サド)

じゅうじかしょうしつじけん(十字架消失事件)
2000年5月20日、ロマネ・コンティのシンボルとして畑に立っている白い十字架が突如消えた事件。コペンハーゲンの海辺に座るアンデルセンの人魚姫が2度にわたって首を切断されて持ち去られたのと同様、マニアによる盗難事件かと思われたが、実は、中の鉄骨が錆びて、修理のための撤去と判明。世界中のブルゴーニュ・ファンはほっとした。

しゅうしゅうへき(収集癖)
なぜか、男性に特有の本能。駅弁の包装紙からクラシック・カーまで、家族に迷惑がられながらもマニアックに集めたがるのは男性だけ。ワインの場合も同じで、1,000本飲んだと豪語はしても、1,000本持っていると自慢する女性はあまり聞かない。

しゅぞうこうてきまい(酒造好適米)
日本酒作りに適した米。ワイン用のブドウは、皮が厚くて小粒、食用ブドウはその反対。日本酒用の米は、粒が大きくて重いのが良い。食用の米は新潟県、山形県、秋田県など、寒いところがウマいが、日本酒用の米は圧倒的に兵庫県。山田錦、美山錦、五百万石が品種として有名。(関連項目:山田錦)

しゅっぱんブーム(出版ブーム)
第五次ワイン・ブームの特徴的な現象。1996年頃から始まった。以降、毎年50冊以上のワイン本が刊行されたよう。ワイン関係の本が一番揃っている恵比寿のワイン・ショップ「Party」で1999年の5月にチェックしたところ、300冊を超えていた。ワイン本の二大勢力が、ワイン自体のウンチク本と料理とワインの本。第7次ワインブームの現在、ショップに並ぶワイン本は2ダースほど。ワイン・ライターの私は食っていけず、「100円ライター」を名乗っている。

×じょうしき(常識)
『ワインの常識(岩波書店1996年6月)』の内容がデタラメだ、と糾弾本『岩波新書「ワインの常識」と非常識(人間の科学社1997年5月)』が出た。でも、『ワインの常識』の中身は、同じ著者が1987年10月に出した『ほんもののウイスキー・ワイン・ビール(三一新書)」とかなり似ている。それなら、1987年には問題にならず、1997年に集中砲火を食らった理由は何なんだろう? 出版社の違いかワイン・ブームの過熱の程度くらいしか考えつかないが。

しょうぶのよる(勝負の夜)
恋愛において、一挙に「結論」を出す夜。彼に勝負をかける夜、必需品は香水とシャンパーニュだ。自分の香水は少し多めに、彼へのシャンパーニュはタップリ多めに。フフフ。

しょうちゅう(焼酎)
日本が世界に誇る蒸留酒。ラム酒のように南方系の風味がある。原料はいろいろ。米(球磨)、薩摩芋(鹿児島、宮崎)、麦(壱岐)、蕎麦(宮崎)、黒糖(奄美諸島)、酒粕(島根)、タイ米(沖縄の泡盛)が有名。その他、カボチャ、ゴマ、トウモロコシ、ワカメ、エノキ茸で作るものもあるらしい。お惣菜の材料なら何でもOKかも。

じょうめんはっこうびーる(上面発酵ビール)
発酵が進むと、酵母が表面に浮かんで来るビール。エール、スタウト、ポーターが代表。発酵温度は高く、発酵期間も2週間と短い。激しく短く燃える情熱的なスペイン娘みたいに、癖のある味、香りになる。チーズで言うと、1週間履いた靴下みたいに臭いウォッシュ・タイプ。通っぽいが、日本では残念ながら受けない(私は大好物で、世界最高のビールは、アンカースティーム社が作ったリバティー・エールだと確信している)。(関連項目:下面発酵ビール)

じょけつ(女傑)
シャンパーニュ地方に多い人。代表は、クリコ未亡人とボランジェのリリーおばさんの二人。どちらも、男臭さがムンムンするシャンパーニュが大好き。白ブドウだけで作るブラン・ド・ブランは、エレガントで洗練されていると大流行しているが、ヴーヴ・クリコ社とボランジェ社は共に、ブラン・ド・ブランを作っていない。オバサン達の遺言なのだろう。破ると化けて出る?

ジョリー、ニコラ (Nicolas Jorie)
ロワール地方だけでなく、地球を代表する変人奇人的ワイン生産者。有機農法の教祖様で、占星術とブドウ栽培の関係を真剣に研究している。でも、あのルロワが教えを乞うほど信頼されており、1988年以降、ルロワのワインが急激に良くなったのはニコラ式有機農法のためらしい。なお、ニコラ氏はボルドーやブルゴーニュのワインを目の敵にしており、毒舌や過激な発言でいつも話題になる。(関連項目:クーレ・ド・セラン、有機農法)

しろワインびがんほう(白ワイン美顔法)
旦那 「赤ワインは健康にイイらしいけど、白をたくさん飲むと、女性がキレいになるよ」
奥さん「じゃあ、私、飲んでみようかしら」
旦那 「いや、飲むのは男の方でね。2、3本飲んで酔っ払うと、みんな美人に見えるんだ」(関連項目:赤ワイン健康法)

しんしゅ(新種)
新しく発見した動植物。花や木の新種を作ると、DNAを登録し、特許を申請するのが普通。多年草の草花は、毎年買わせるため、1年草に変えるというセコい手を使うらしい。なお、料理やカクテルは特許で保護されないので、ウンウン唸って新しい料理を考えても、すぐ、誰かに真似される。ちょっとカワイソー。

しんだるにひゃくぱーせんと(新樽200%)
ブルゴーニュの奇才・変人、ドミニク・ローランのキャッチ・フレーズ。発酵、マロラクティック発酵、熟成を新樽で行うと「新樽300%」。赤は新樽で発酵できないので、「200%」と思われがちだが、樽買いしたワインを自分好みの樽に入れ替えるところからの命名。樽を替えただけでこんなに違うのかと仰天する。(関連項目:新樽300%、ドミニク・ローラン)