連載コラム

葉山考太郎の「新痛快ワイン辞典」 Vol.09 2018_05_11

葉山考太郎先生が1999年に出版した『辛口・軽口ワイン辞典』(日経BP社)の続編です。ワインに関する用語が、葉山先生特有の痛快な語り口で解説されています。今回は、「す」で始まる語をお届けします。

【見出し語について】
(1) アルファベットで始まる語はカタカナ表記で配列した。【例】AOC⇒エー・オー・シー
(2) シャトーやドメーヌが付くものは、それを除いた見出し語で収録した。【例】シャトー・ラヤス⇒ラヤス、シャトー
(3) 人名は、「姓+名」で収録した。【例】ロバート・パーカー⇒パーカー、ロバート



すいしょうのこな(水晶の粉)
有機農法を更に押し進めたバイオダイナミクスの象徴的存在。太陽や月の光を取り入れるため、畑にこれをスプーン1杯分、撒くだけで霊験あらたからしい。バイオダイナミクスという字面には、エアロダイナミクス(流体力学)みたいで理論的な雰囲気があるが、実際は錬金術みたいなものかも。(関連項目:バイオダイナミクス、有機農法)

スターリン・ジョーク:その2
『辛口/軽口ワイン辞典』の「スターリン・ジョーク」の続編。米ソ冷戦中、西側の記者を集めた会見で、スターリンは九官鳥を肩に留まらせ、ラトゥール1945年を持って現れた。九官鳥はクチバシでキャップシールを剥がし、パニエのままコルクを抜いた。スターリンは、丁寧にデキャンタージュしたあと、グラスにワインを注ぎ、記者に配った。ニューヨーク・タイムズの記者が驚いて聞いた。「こりゃあスゴい。すごく役に立ちますね。どこで見つけたんです?」「クレムリンさ」と九官鳥が答えた。

スターリン・ジョーク:その3
スターリンが同盟国キューバを訪問した。耕作中の農園と建物とを見せながらカストロが言った。「ピノ・ノワールの赤を年に100万ケース生産する巨大ワイナリーを建設中です」それを聞いたスターリンは大笑いした。「酔狂なプランですな、同志。暑すぎてピノ・ノワールができないのに、ワイナリーを建築してどうするんです?」カストロはトレード・マークの顎ヒゲをしごきながら切り返した。「でも、ソ連にも教育省があるんでしょう?」

スターリン・ジョーク:その4
チャーチルがパリのタイユバンでラフィット1899年を飲み食事をしていると、隣のテーブルにスターリンが通された。ヤルタ会談以来だと二人が挨拶を交わした後、スターリンはラフィットのラベルを見て言った。「私も何度かこれを飲んだことがあります。素晴らしいものですねぇ」「そう、これに勝る物は見当たらんでしょうな」とチャーチルが応えた。スターリンはチャーチルのそばへ行き、耳元で囁いた。「ところで、これは何です?」

スターリン・ジョーク:その5
共産党本部の地下でワインの壷を持ったミイラが見つかる。スターリンはワインの年代を探ろうと考古学者に鑑定を命じたが、わからない。物理学者に放射性同位元素法で計測させたが、不明。そこへKGBの長官が現れ、壷とミイラを本部へ持ち帰った。翌日、長官から電話があり、「あれはカール大帝時代のワインで、ヴィンテージは792年です」「よくやった。でも、どうやって分かったんだ?」「KGBの尋問室ではミイラも自白します」

スターリン・ジョーク:その6
アル中治療の実験台として、モスクワ中央医学研究所でアル中の末期患者が必要になり、共産党新聞、プラウダに新聞広告を出した。「1万ルーブルで1年間毎日6本のワインを飲む男性求む。委細面談」。これを見たスターリンは変装して応募した。係員の説明のあと、変装姿のスターリンが言った。「条件がある。ウォッカを1本追加してほしい。それと、今、千ルーブルしかないので、残りは月賦だ」

スターリン・ジョーク:その7
何十年も毎日6本のワインを飲んだスターリンは、アル中で死去。遺体はレーニン廟に埋葬され、脳は移植用に臓器バンクへ送られた。ある日、脳移植希望の男が臓器バンクを訪れた。「アインシュタインの脳が100ルーブルと安いが本物かね?」「もちろんです。保証書もあります」「それに比べて、スターリンの脳が50万ルーブルとは高すぎる」「いえ、お買い得ですよ。何十年もアルコールに漬けて状態は完璧だし、完全未使用ですから」

すなのおんな『砂の女』

三島由紀夫と共にノーベル文学賞の最短距離にいたが果たせなかった不運の作家、阿部公房の代表作。日本が世界(とは言え、読者はヨーロッパが中心)に誇る古典的前衛文学作品。底に一軒のボロ家がある砂の穴に落とされた男が、逃亡を企てたり、その家に住む女との関わりを描いた長編。その一節に「耳垢は上質のチーズの味がする」と書いてあったので勇気を出して試すと(もちろん自分ので)、酸味の強いサント・モール系の味がした(チーズ・プロフェッショナルの試験には出ない知識なので、良い子はマネをしないように)。なお、耳垢にはネバネバ系の猫耳と、カサカサ系の犬耳があり、遺伝する。チーズの風味があるのは猫耳。

スピリッツ (Spirits)
アルコールの強い蒸留酒系の飲料の総称。潰してジュースにしたブドウからワインができるため、古代の人は、潰して死んだものから生命(魂)あるアルコールができたと考えた。これがスピリッツ(魂)の語源らしいので、アルコール全般を指すのが本来。でも、蒸留酒全般を意味するようになり、今では、ウィスキーとブランデー以外の蒸留酒の意味で使う。代表選手は、ウォッカ、ジン、ラムで、『名探偵コナン』に時々登場する。(関連項目:エスプリ)