連載コラム

連載コラム:堀晶代の知っておきたいブルゴーニュ&シャンパーニュのエッジなお話し Vol.06 2018.03.16

ブルゴーニュに、価格の上げ止まりはあるのか? ~その2~

前回のコラムで、多くのワイナリーが必要以上に価格を上げたくないと願っていると書いた。ブルゴーニュのイメージは、良くも悪くも一部の著名ワイナリーによって牽引されている。ブルゴーニュの品質の高さを市場に知らしめたのが著名ワイナリーであるならば、価格高騰もまた、著名ワイナリーによってもたらされている。一昔前は購入できた著名ドメーヌのワインが、いまではまったく買えない価格になっていることは、消費者にとって非常にリアルで、著名ワイナリーを例に挙げた価格のチャートも変動が分かりやすい。

しかし一般的に、常識的かつ良心的な運営を行うワイナリーの場合、蔵出し価格の引き上げにはとても慎重だ。価格の引き上げは顧客離れを引き起こすだけではない。ワイナリーの経営にも大きな問題となる。中でももっとも現実的なことは、畑の賃貸料が上がることだ。

ドメーヌと言えば自社畑を持っているというイメージが強いが、ワイナリーが栽培から携わる畑は賃貸であることも多い。賃貸料はワインの販売価格の17%である。つまり蔵出し価格を上げれば上げるほど、賃貸料も上がる。私たちの生活に置き換えれば、収入は上がるが、家賃も上がるのと同じこと。せっかくの収入を家賃に持って行かれるのは厳しい。2012年からさまざまな自然条件により収穫量が落ち込んでいるブルゴーニュだが、収穫量の減少を、すぐに価格の引き上げで補えるという単純な構図ではない。賃貸料を抑えることが目下の急務となっている。

需要と供給や、さまざまな経営の要素を考慮した上で、ブルゴーニュの価格が安定するのはいつなのか。多くのワイナリーは、収穫量が2~3年間は安定することを待ち望んでいる。収穫量が激減した2016年の後、17年の収穫量も過去10年比では多くはないものの、ワイナリーの維持という意味では満足のできる結果となった。「17年のような年が2年以上続いてほしい」という意見は異口同音に聞く。

ところで今、もっともブルゴーニュで潤っているワイン従事者とは誰なのだろう?それはずばり、ブドウ栽培農家である。原料であるブドウが足りないのだ。ブドウの売り先には困らず、醸造を行わないので、醸造施設に投資する必要もない。まさに売り手市場である。だがこの需要と供給の関係も、「17年のような年が2年以上続けば」変わる。

ここ数年は、とくに大手のネゴシアンがブドウを確保するために、ブドウ栽培家へ最良の条件を出している。言い方を変えれば、ネゴシアンはブドウ栽培家を「取り込んだ」のだ。取り込まれたブドウ栽培家の中には、かつては自らもワインを醸造していたが、今ではブドウ需要で醸造を行わなくなった者もいる。自らの名前をワインに冠することで価値を持たせることができない栽培家が引き続きブドウを安定して売りたい場合、買い手に価格条件を引き下げざるをえない流れとなる。大手ネゴシアンに期待されているのは質・量・価格の安定であるからこそ、ブドウ不足の時代も購入経路を広げてきた実績は大きな強みとなるだろう。

いくつかの条件や状況がかみ合えば、私たちが口にするブルゴーニュの価格は安定する。ともあれブルゴーニュがこれ以上の価格高騰を望んではいないこと、そしてヴァン・ド・リュックス(ブランド化された贅沢品)になりたいと思っていないことは、確かなのだ。

「ワインは飲んでもらうから意味がある。投機や投資目的で購入されることは悲しい」という思いは強い。