連載コラム

連載コラム:堀晶代の知っておきたいブルゴーニュ&シャンパーニュのエッジなお話し Vol.10 2018.08.24

ブルゴーニュが待ち望んでいたヴィンテージ、2017年

2002年に渡仏して以来、私が毎年必ず行っているのが、ブルゴーニュのコート・ドールで計40から100軒のワイナリーを訪れて、前年度のワインをバレルテイスティングすることだ。定点観測することで各ワイナリーの個性の変化や、それぞれのテロワールの個性、ヴィンテージの違いが見えてくる。

今年も7月上旬にまずは20軒のワイナリーを訪問した。いろいろな生産者やブルゴーニュワイン委員会からは「質も量も揃ったヴィンテージ」と聞いていたが、驚かされたのはその飲みやすさ。樽で熟成を続けている段階のワインは、輪郭や集中力がまとまっていないまだまだ未完成の状態ではあるが、「このまま瓶詰めしても、これはこれで魅力的なのではないか」と思わせるほど、とにかく飲みやすい。飲みやすさ、分かりやすさという点では、01年ヴィンテージから定点観測を続けている中でもトップである。生産者は異口同音に言う。「このようなヴィンテージを待っていた」と。

12年ヴィンテージよりブルゴーニュは何らかの理由で、生産量が過去平均を下回ることが続いていた。しかし17年は生産量を確保できて、かつ飲みやすい。瓶詰め後は半年ほど落ち着かせれば、若い時期から楽しめるだろう。市場の需要に応えられる量があることはもちろんのこと、「若い時期から楽しめる」という点をさまざまな生産者が歓迎し、17年を市場に送り出すことを楽しみにしている。生産者たちは話す。

「市場の需要に応えられる生産量が得られない年が続いていることは、ワインの価格が上昇する理由のひとつ。それでもワインを購入してくださる消費者はいるが、飲み頃まで待ってほしいとは言えない。17年には評論家受けするような壮大な複雑性はないかもしれない。しかし難解さがないこともポジティヴに捉えている。充実した果実味によりテロワールの個性が伝わりやすく、熟成を待たずとも、つねに美しさを感じられる。

 とくにレストランやワインバーなど飲食店には、使って頂きやすいヴィンテージだ。飲み頃までを見据えて大量にストックできる飲食店はごく一握りなので、ほとんどの場合は近年の供給量の少なさもあり、若いヴィンテージをどんどんと開けていく。だがせっかく高価なワインを開けても、その実力を消費者が存分に堪能できているかは分からない。その点で17年は、どのようなシチュエーションで飲まれても、若い時期から消費者を満足させてくれると思う」。

消費者がワインを楽しめて、品質と価格が見合うと感じ、また同じワイナリーや産地のワインを飲みたいと素直に興味を持つ。これは真摯な生産者が望むワイン造りの原点だ。自身のワインがどのように飲まれているかを知る術はSNSを駆使しても限られている。消費者がワインを楽しめたかということは、多くの生産者にとってかなり気になることだが、パフォーマンス性が高い17年は造る側にとって待ち望まれていたキャラクターを備えている。

しかしあらゆるヴィンテージで言えることとして、すべての生産者が成功している訳ではない。やはり17年においても、生産者の力量が問われることとなった。次回のコラムでは17年ヴィンテージが生まれた背景や、ワインの出来を左右することになったポイントについて触れていきたい。