連載コラム

連載コラム:堀晶代の知っておきたいブルゴーニュ&シャンパーニュのエッジなお話し Vol.14 2019_03_22

異常気象、それとも本格的な地球温暖化?

ブルゴーニュのブドウ畑の一年は、収穫が終わり、ブドウ畑が黄金色に染まった後から、翌年の収穫を見据えて新たに始まる。基本的には1月以降の冬はしっかりと冷え込んだ方が良い。理由のひとつとしては、前年に蔓延したカビ系の病気などが、寒さにより完璧に死滅してくれるからである。この点では、2019年度のスタートは良かった。1月上旬は例年なら数時間の日照量があるのだが、冬の重い雲に覆われた今年はなんと、1日あたりの日照量は10分にも満たなかった。徹底的に寒い1月に、それでもブルギニョンは冬の恒例であるサン・ヴァンサン祭りを楽しんでいた。

何とも暗く、寒い気候が変わったのは2月中旬からだ。早すぎる春は2月26日にピークを迎え、フランス全土で1960年以来となる2月の最高気温を記録した。ブルゴーニュでは24℃まで気温が上昇したが、ちなみにパリは21℃、ジロンド(ボルドー)では27℃まで気温が上昇。そしてブルゴーニュでは約60年ぶりに、2月下旬の畑で「pleurs(プルール)」と呼ばれるブドウの涙を見ることとなった。

ちなみにプルールとは、春になり地中の温度が安定することで、冬眠していたようなブドウ樹が目覚め、樹液が循環し始めることにより、冬期に剪定した枝先から樹液がポトポトとたれることだ。例年ならプルールの季節は3月下旬である。2月のプルールによってブルギニョンの仕事も格段に忙しくなる。一言で「冬期剪定」といっても様々で、前年にブドウ樹が葉を落とした頃からに剪定を行う場合もあれば、厳冬期に粘りに粘り、冬期に木質化したブドウ樹をギリギリのタイミングで剪定する場合もある。1960年以来の早いプルールにより、生産者は冬期剪定を即座に終え、次に水を吸い上げたことで柔軟性を帯びた枝の誘引(垣根に水平に張られたワイヤーへ固定する)を行わなければならない。SNSには「もう、プルールが!」というワイナリーからの悲鳴のような書き込みで溢れかえった。

このコラムを書いている3月中旬には気温はほぼ例年並みに戻ったが、約60年ぶりにブドウ樹の目覚めが早く起こったことは間違いない。発芽は早く起こりそうで、生産者が恐れるのは16年のような極端な寒の戻りによる春の霜害だ。

02年からブルゴーニュとシャンパーニュに定期的に通うようになり、翌年には「世紀の酷暑」として記憶に残る03年があった。しかしその後も生産者たちは安易に「地球温暖化」という言葉を使うことは稀で、「異常気象」という言葉で説明してきた。またディジョン大学で教鞭も執るある生産者は、「ブルゴーニュの温暖化と寒冷化は400年サイクルほどで繰り返しており、今がたまたま温暖化のサイクルに入ったところ。また寒冷化することもある」とも言った。しかし近年は8月からの収穫や9月上旬の収穫は10年中、約8から9回。ちなみに前世紀における9月上旬の収穫は20年に1回だった。もはや「早熟な年」という異常気象が常態化しており、生産者たちは「地球の気候の長いスパンを考えると温暖化とは短絡的には言えないが、気温の上昇による早熟なブドウに対応するノウハウができている」という。

もちろん過去10年においても晩熟なヴィンテージはあり、その筆頭が13年だ。10月に収穫を終えることは珍しくないが、収穫の開始も終了も10月というのは40年ぶりであった。それでも全般的には温暖化傾向は加速している。フランスでは05年に、「温室効果ガスの排出を、現在の1/4に抑える(75%削減)」という目標値が法律に明記され、環境グルネル第二法に包括された。シャンパーニュはこの法規制の成立を待たず、ボルドーと同時期である03年に、業界全体の二酸化炭素排出量測定評価をシート化し、温暖化対策をスタートさせた。地球の緩やかな営みに、人間の産業活動が現在の温暖化傾向を加速させていることは少なくとも事実であるので、ブルゴーニュも全域での取り組みが必須となってくるだろう。

次回は温暖化以前に、前世紀のブルゴーニュが晩熟傾向だったことに触れたい。