連載コラム

連載コラム:伊東道生の『<頭>で飲むワイン 』 Vol.34 2014.02.05

恐竜とワイン

 年末年始と、このコラムではシャンパーニュの話が続いたので、今回は比較的マイナーな地方のワインを。ジュラJuraのワインです。
ジュラの名前は、ワインよりもむしろ年代の名前でも最初に接することが多いでしょう。ジュラ紀のジュラです。中生代の三畳期と白亜紀に挟まれた二億年ほど前から一億五千年ほど前の時代で、最初のアンモナイト化石が出土する層です。ジュラ山脈に広範囲にある石灰岩層が、ちょうど恐竜の時代にあてはまり、ジュラ紀=恐竜の時代という連想で、小学校や中学校で(今も?)わくわくした人も多いでしょう。もちろん、あの『ジェラシック・パーク』もジュラ紀=恐竜公園となります。
ちなみに、ジュラ紀は前期・中期・後期の三つに分かれますが、最後の後期マルム時代のなかには、キンメリッジアンという時代区分があります。名前の由来は、イギリスの街です。ドーバー海峡(フランスでは「パ・ド・カレ」と言います)にそそりたつ崖、ホワイトクリフに象徴されるようにチョーク、石灰岩の地層です。このキンメリッジ地質は、シャブリのテロワールでおなじみですね。ミネラル感、火打ち石のような、という形容詞でも。ジュラ紀後期の貝殻の化石を含む石灰岩土壌は、引き締まった酸味やクリスピーなミネル感を生み出す味わいとも言われます。もともと深い海だったから?貝類などの魚介類との相性がいいとか。そんなことある?そう言えば、ロマネ・コンティの畑では、今でも魚の化石が出てきて、ワインに塩味があるという人もいるくらいなので・・。真偽はともかく。
キンメリッジ期の後の時代が、チトニアン期です。昔、ポートランディアンとも呼ばれたことがあり、プチ・シャブリなどの土壌になっています。貝殻石灰を含まず、粘土質が多く、シャープさに欠けます。シャブリの有名な作り手、ウィリアム・フェーブルは、シャブリのサン・ブリSaint-Brisでソーヴィニョン・ブラン!のワインも出していますが、このセパージュと土壌の相性はどうなのでしょう。テロワールの特徴が出ているのでしょうか。ちなみに、シャブリへはパリから車で比較的楽に行けますが、そのパリ自体は、古い名前である「ルテシア(ルテティア)」から来ている「ルテシア期」というのが、新生代にあります。

ジュラがフランスの傘下に入ったのは、ルイ14世の統治下、17世紀後半です。ジュラ山脈があり、スイスも近く、葡萄栽培に最適とは言い難い地方ですね。それでも色々と特色あるワインを産出しています。何と言ってもヴァン・ジョーヌが有名ですが、ご時世柄、一昨年に紹介した発泡性ワイン、クレマンの生産やシャルドネとか、世間に打って出る方策を試みています。

去る二月一日と二日には、Percée du vin jaune 2014というヴァン・ジョーヌのお祭りが、ペリニPerrigny とコンリエージュConliègeでありました。2006年のヴァン・ジョーヌやヴァン・ド・パイユ、マクヴァン、クレマン、白、赤と試飲に供され四万人あまりの人がたのしみました。また日曜の朝には、2007年のヴァン・ジョーヌの220リットル入りの「ピエス」樽がふるまわれました。ヴァン・ジョーヌ は、通常クラヴランclavelinという62ミリリットルの瓶にはいっていますが、ピエスの樽とは、いやはや見たかったです。もちろん飲みたかったですが。

RVFが年に一回出しているワインガイドブックでみると、ジュラ地方のドメーヌで最高の三つ星を獲得しているのが、アンドレ・エ・ミレイユ・ティソDomaine André et Mireille Tissotとジャン・マクル Domaine Jean Macleです。前者はヴァン・ジョーヌもマクヴァンもつくっています。二つ星は、ガヌヴァDomaine Ganevat、ジャック・ピュフネイDomaine Jacques Puffeney。
ジュラの白ワインは、サヴァニャン種が基本ですが。最近ではシャルドネの植え付けがずいぶん盛んです。むしろサヴァニャンをうわまわって白ブドウとしては主力セパージュになっています。上記の五つのドメーヌでもサヴァニャン種が主要なのは、最後のピュフネイだけで、あとのドメーヌでは、60から70パーセントに及んでいます。ジュラ全体としては2000haというかなりのものです。シャブリが2400haくらいですから。
シャルドネにも、ヴァン・ジョーヌと同じ-木樽でアルコール発酵の後、寝かせておいたワインの表面にカビというか酵母の薄い膜で保護されながら、ワインの酸化がすすむl’oxydation ménagée が採用したり、両者を混合したりすることも多いのですが、単独栽培で、地勢的複雑さや、モザイク状に異なるテロワールをいかしたつくりもおおくなっています。

 RVFのおすすめは、次の五つです。
Domaine André et Mireille Tissot , Arbois Le Clos de la Tour de Curon 2009
Domaine Ganevat, Côtes du Jura Les Chalasses vielles vignes 2010
Domaine de Montbourgeau, L’Étoile Cuvée Spéciale 2008  
Domaine Pignier, Côtes du Jura À la Percenete 2011   
Julien Labet Vigneron, Côtes du Jura La Reine 16/20 
 いずれも、香辛料、アンゲリカ、バター、樹木、野菜など、それぞれのテロワール毎に特色ある味と香りを出しているようです。地元のコンテ・チーズの皮の部分に似た香りもあるとか。もっとも、日本ではなかなか手に入れるのは難しいでしょうが。

さて、Revue du vin de France誌では、写真愛好家によるワインの写真を応募しています。ワインも写真も、愛好家はみなamateurアマトゥールと言います。テーマは、三つあります。一つは「ワインの人Les hommes du vin」。ワインに関わっている人とか、飲んでいる姿とか、ワインと人間に関わるものです。次に「ワイン庫でDans les chais」。ワイン・カーヴ(原語ではchaiシェ、つまりボルドーのように地上面にあるワイン庫になっています)におかれたワインやワイン庫そのものの様子。最後は「ブドウ畑風景Paysages viticoles」です。
すでに1月20日から始まっており、2月20日が閉めきりです。優秀なものはRVFにも載るようです。写真にはコメントが必要で、撮影日時と場所、撮影者、上の三つのどのカテゴリーか、を書いてください。それぞれのカテゴリーに各一枚応募できます。JPEGフォーマットで、1800x2400 pixel以上とのことです。応募先は、ここです。concoursphotolarvf@gmail.com 
われと思わんワインと写真の愛好家は是非、応募してください。葡萄の樹なしの土壌と地質だけの写真、酵母だけの写真もありかなあ。