連載コラム

連載コラム:伊東道生の『<頭>で飲むワイン 』 Vol.45 2015.01.08

バナナとワイン

 みなさま 明けましておめでとうございます。本年も当コラムをよろしくお願いします。

 さて年明け早々のネット上のRVF誌の記事がシャンパーニュではなく、なんともおかしな・・・「バナナにあうワインは何か」。
 なぜでしょう。「冬の到来とともにバナナが帰ってくる。このエキゾチックな果物には多くの種類がある。 カイエンヌやグアドループやヴィクトリアなど・・」
 カイエンヌは、カイエンヌ・ペッパーで有名ですが、南アメリカ北東部にあるフランス領ギアナ、いわゆるフランス海外県の都市。グアドループも西インド諸島東部のフランス海外県、ヴィクトリアという名のバナナも、レユニオンというマダガスカル島東方のインド洋のフランス海外県から来るバナナです。つまりいずれも亜熱帯にある旧フランス植民地、今ではフランスの海外県となっている地域で、そこから冬の到来とともにバナナが届くという次第です。個人的にはあまりそう思ったことはないですが・・・。ちなみに海外県で有名なのはマルティニックでタヒチに行く前のゴーギャンや、日本に来る前のラフカディオ・ハーン(小泉八雲)も住んでいました。

 で、バナナにあうワインって思い浮かびますか?
 熟したバナナには甘みと酸味の調和があり、繊細な味わいがする。こうしたバナナの特徴に近いワイン、つまり、繊細な甘さをもち、最後に酸味が口中の甘さを消してくれるようなワイン、だそうです。何か思いつきますか。う~ん、リースリングとか?

 RVFでは・・・フランス南西地域には、このバナナの香りと味わいにぴったりのワインがあります。ジュランソンの甘口ワインで、熟したバナナと白トリュフの香りが素晴らしい、と。バナナと白トリュフって、いまいちイメージがわきませんねえ。
 結論をいうと、まず生のままでバナナが出されたときには、ドメーヌ・カマン・ラルデャ(Camin Larredya)のオー・カプスー(Au Capceu) 2011が推薦ワインです。場所としてはバスク地方ということになるのでしょうか。カマンというのはベアルン地方の言語で、「道」という意味だそうです。製造者ジャン=マルク・グリュソートは、シャペル・ドゥ・ルース村のテロワールを生かした葡萄栽培をしていて、見事なバランスをもった甘口をつくっています。ドメーヌのHPを見ると、セパージュはプティ・マンサン。アプリコットやイチジク、オレンジなどのコンポート、熟成するにつれ蜂蜜、ときにトリュフの香りがする、たっぷりした味わいとスピリッツ感、新鮮さのバランスがいいと。ただバナナは出てきませんでした。
 ジュランソンは、日本ではあまり飲む機会のないワインですが、フランス人にとってはある人物と切っても切れないワインです。それはフランスで最も人気のある王様です。誰でしょう。日本人は、フランスの王様というとすぐにルイ14世やルイ16世などを思い出しますが、答えはアンリ4世(1553-1610)です。パリの橋ポン・ヌフに、その馬に乗った銅像がたっています。代々の王様のルイに連なるブルボン王朝を開いた王様で、国内のカトリックとユグノーと呼ばれたプロテスタントの争いを収めた人です。パリのルーブル美術館のすぐ東にサン・ジェルマン・ロクセロワという教会があって、そこでサン・バルテルミの虐殺と呼ばれるユグノーの虐殺事件がありましたが、そうした争いに一時的ですが終止符を打ちました。またアンリ4世は食通としても知られ、フランス中のワインを飲んだとか。そのアンリ4世が洗礼をおこなったときに使われたワインがジュランソンでした。ベアルン地方出身なので、『ル・パヴィヨン・アンリ・IV』(Le Pavillon Henri IV)で19世紀につくられたベアルンのソース、つまりベアルネーズ・ソースもアンリ4世にちなんで、ということです。ワインとしてはベアルン、ベアルン・ベロックというAOCがあり、こちらがベアルネーズ・ソースにあうともいわれています。
 次に焼きバナナのヴァニラ風味や他のデザートとしてだされた場合は、何があうかというと、クロ・ウルラ(Clos Uroulat)の甘口(moelleux)ジュランソン2001が素晴らしい。ジュランソンの他には、マディラン。かつて、ここはサン・チャゴ・デ・コンポステーラの巡礼も通り、巡礼者に人気のワインで、ミサ用ワインとしても多く使われていました。さらにそこに近いパシュラン・デュ・ヴィク・ビルのワイン。アラン・ブリュモン(Alain Brumont)のブリュメール(Brumaire)2011がカラメル・ソースのバナナに合うということです。これもプティ・マンサン100%。ブリュメールといわれるとフランス革命暦8年のブリュメール(霧月)18日のクーデターをつい思い出してしまいます。ナポレオン・ボナパルトが第一統領になった事件です。このドメーヌは、ナポレオン礼賛者なのでしょうか。
 こうしてみると、フォワグラにもあいそうなものがバナナにもあうということのようですね。となると、南仏のワインもいけそうです。ヴィオニエなどはどうでしょう。
 
 次に、もっとエキゾチックにバナナを使った料理、タンドーリ・チキンのバナナ・サラダにあわせるのはなんでしょうか、という問題です。これは料理のイメージもわきません。ジュランソンのドメーヌ、レ・ジャルダン・ド・バビロン(Les Jardin de Babylon)-バビロンの庭という意味です。バビロンは古代メソポタミア、ペルシアの都市で、バビロンの空中庭園、といっても屋上庭園ですが、世界の七不思議の一つにあやかったのか-このドメーヌの2010年ジュランソン・セック、そのマンゴーとバナナの香りがあうと。
 ジュランソン・セックでなければ、ドメーヌ・シルレ(Chiroulet)のコート・デウー(Côte d’Heux)。このドメーヌはアルマニャックも生産しています。グロ・マンサンの乾燥バージョンを使って見事な熟成を出していると。ごくシンプルにいうと、ジュランソン(白)では、セパージュは主にグロ・マンサンとプティ・マンサンが主役ですがときにクルビュ(Courbu)も使われ、よいものは基本的に甘口のモワルー(moelleux)タイプということになり、エキゾチックな風味、フォワグラやときにこってりしたクリームを使った料理にあいます。
 最後に、RVFの年鑑ガイドで、南西地区の優秀ドメーヌをあげておきます。三つ星はなく、二つ星が最高です。カオールのシャトー・セードル(Cedre)、ジュランソンのレ・ジャルダン・ド・バビロン、クロ・ウルラ、ドメーヌ・スー(Souch ここはビオ)、ガイヤックのプラジオル(Plageoles)、ベルジュラックのシャトー・ドウール・デ・ジャンドル(Tour des Gendres) が二つ星です。