連載コラム

連載コラム:伊東道生の『<頭>で飲むワイン 』 Vol.68 2017.02.06

プティ・ブルゴーニュ?

 前回はRevue du vin de France誌で指摘されたブルゴーニュが抱える問題について紹介しました。その最後で高騰するコート・ドール以外の地域であるコート・シャロネーズとマコンで推奨される12のドメーヌを紹介しました。
 今回は、その続きです。ブルゴーニュのグラン・クリュに隠れた地域の紹介なのですが、そのタイトルが「破産せずに済む試飲すべき6つのブルゴーニュ」とあって、文字通り高額ではないワインを提供する6つの地域を推奨しています。それは、Saint-Aubin, Saint-Romain, Marsannay, Hautes-Côtes-de-Nuits, Bourgogne Éoineuil, Bourgogne Côtes d'Auxerre です。有名グラン・クリュの影に隠れ、正統に評価されていないけれども、歴史は負けていない。Saint-Aubinはモンラッシェと同年1937年にアペラシオンを獲得しています。- Bienvenues-Bâtard-Montrachet Grand Cru で名高いDomaine Jean-Claude Bacheletは、Saint-Aubin premier cruをビオで、モンラッシェと同じように念入りにつくっており、有名アペラシオンを所有するドメーヌが、その入門編のようなかたちで、ブルゴーニュ全体の80%を占めるAOCブルゴーニュや村ものをつくっているのは栽培家の間では周知の事です。 こうしたワインは、90年代はプロフェッショナルの試飲には供されなかったのですが、今日ではテロワールのヒエラルキーをも一変させるとして、ブラインド・テースティングにかけられることがしばしばあります。ちなみに上に挙げられているドメーヌ・バシュレでは、Saint-Aubin premier cru Derrière la Tourという赤とEn Remilly, Les Champlots, Les Charmois, Les Murgers des Dents de Chie の4つのプルミエール・クリュで白を、ブルゴーニュ白も出しています。
 それは各地域の推薦ドメーヌです。
 最初はSaint-Aubin(147ha)ここはテロワールの質と安定で多くの愛好家に知られています。このワインの80%は、15から30ユーロで売られています。117haがプルミエール・クリュで、多くは白。推薦ドメーヌとそのワイン(いずれも白)は、Domaine Patrick et Barbara Miolane, 1er cru Sentier du Clou 2014, 15ユーロ。Domaine Laure, 1er cru Les Cortons, 2014, 18ユーロ。Jean-Claude Bachelet, 1er cru Les Combes au Sud, 2014, 19.50ユーロ。上記に挙げたプルミエール・クリュとは異なるものです。もとは赤ワインを産出していた土地の、新しいキュベだそうです。時とともにダイヤモンドのブリリアンカットのようにきらめくだろう、と絶賛しています。最後が、Lamy-Pilot, 1er cru Les Charmois 2024, 32ユーロ(但し小売りで)。
 次はSain—Romain(98ha) ブルゴーニュで最も小さいアペラシオンの一つ。愛好家にはミネラル感で有名、新鮮で果実味があるシャルドネ、ピノ・ノワールも同じ性格であるが軽さと肉付きの良さをもっている。コスパのよいものとしてネゴシアンものやドメーヌものが人気になっている。幾つかのクリマはプルミエール・クリュの水準、価格は20ユーロ前後。Château de Melin, Sous Château 2015, 11ユーロ。アベイド・シトーのチーズと合う赤ワインということです。後のワインはすべて白です。François d'Allaines, 2014, 20ユーロ。Domeine Henri et Gilles Buisson, Absoli 2015, 20ユーロ。Jérémy Recchione, La Combe Bazin 2014, 23ユーロ。2013年設立の小さなネゴシアンで、これからの推移を見守る必要があるそうです。
 Marsannay(240ha) AOC村もので唯一ロゼが認められているアペラシオンで、15から30ユーロ程度。Givryの様な繊細さと複雑さを備えています。2014年もののプルミエール・クリュは2017年まで待たなければなりませんので、それ以外を。いずれも赤です。Domaine Huguenot Père et Fils, Champs Perdrix 2014, 23.80ユーロ。その名(ヤマウずら)通り、ルビー色だそうです。Domaine Bart, Champs Salomon 2014, 18.50ユーロ。Domaine Sylvain Pataille, Clos du Roi 2014, 28ユーロ。Domaine du Vieux Collège, Vigne Marie 2014, 16ユーロ。この二つは今すぐ飲めるし、保存しておいてもOKです。
 Haute-Côtes-De-Nuits(600ha) Hautes-Côtesに16のコミューンとCôte de Nuitsに4のコミューンを持ち、多様性に富んでいる。80年代以降、多角栽培をする葡萄栽培家が特化して増えています。高度300から400メートルの高さにあるので、近年の温暖化傾向は葡萄の熟成に関しては好結果をもたらしています。赤、白、ロゼがあり、8から15ユーロと極めて手頃です。最初は赤が二つ。Pierre Naigeon, Petite Vigne 2014 価格は不明。Domaine Manuel Olivier 2013, 11ユーロ。次は白が二つ。Julien Cruchandeau, Vieille Vigne 2014 11ユーロ。Maison Ambroise 2014 価格不明。2013年からビオの認証。
 Bourgogne Êpineuil(75ha) ラングル平野の冷たい風から守られた小さな谷になっており、ここの赤は「天使の羽」と呼ばれることがあります。フィロキセラの害は長く続き、再建は70年代の終わり。シャブリの北東にあって、同じキンメリッジ地層ですが、ピノ・ノワールを主に栽培し、ピノ・グリによるロゼも産出している。いずれも赤が推奨されています。Domaine Gruhier 2015, 11ユーロ。2015年からビオ。このアペラシオンを認識し発見するのによい理想だそうです。Domaine Garnier et Fils 2014, 15ユーロ。基本はシャブリを本拠とするドメーヌですが、2011年以来このアペラシオンとAOCブルゴーニュの赤を出しています。Domaine Marc et Sonia Cameron, Sagara 2013, 8ユーロ。Maison Simmonet-Fevre 2013, 7.80ユーロ。
 最後は Bourgogne Côtes d'Auxerre(198ha) 1993年以来再認識され、7つのコミューンからなる。ここもキンメリッジ層で、ピノ・ノワールやシャルドネに新鮮さを与えています。Auxerre 一応「オーセール」と発音するのが正しいのですが、人によっては「オークセール」と発音しています。パリからリヨン、南仏へと抜ける交通の要所で、アクセスがいい場所です。Domaine Jean-Hugues et Guihem Goisot, La Ronce 2015 23ユーロ。Le Domaine d'Édouard 2014, 13ユーロ。主人のÉdouard Lepesmeは30歳でビオ栽培。2014が最初のミレジメで、ここも推移を見守る必要があります。Domaine Jean-François et Pierre-Louis Bersan, Marianne 2012, 10.50ユーロ。Domaine de la Cour Céleste, L'Ancestrale 2012, 9.90ユーロ。2008年以来若き栽培家Thomas SeguiaとArnaud Adhanが16haを。
 いずれもあまり日本では見かけないドメーヌが多いですが、お手頃価格なので、コート・ドールの村ものとブラインドで、比較してみるのも面白いかもしれません。
 価格の問題は、こうしたプティ地域への注目だけでなく、輸入ワインの増量をともなっています。日本でも、チリやオーストラリアなどのワインは普通に見かけますが、フランスでも同様のようです。とくに価格の面ではスペイン・ワインの輸入量増大がRVF のネットニュースになっています。それによると、ここ10年でスペイン・ワインの輸入量は40%も増えました。2005年から2006年では244万ヘクトリットルだったものが、2015年間から2016年では556万ヘクトリットルになっています。2005年頃は、まだしも金銭的に入手可能な高級ワインはちらほらあった頃でしたかね。
 記事のなかでも、この増加がスペイン・ワインの価格によるもので、同じ低価格のラングドック=ルーションのペイ・ドックの競争相手になるとも。ガール県では若手の栽培者がオード県では農業組合が対抗処置を講じ、スペイン政府もこれに対抗、と動きが活発です。
 スペインは葡萄作付面積が世界一(102万ha)で、当然生産量も多く、輸出も多いわけですが、フランスは第三位です。(70万9000ha)。知らない間に中国が二位(80 万ha)になっていました。葡萄として食べることもあるので、中国の生産量と消費量は5位だそうです。一年5%の消費の伸びを見せる中国、とくに上海はアジアの中心市場になっているのもうなずけます。日本は世界のワイン界で取り残されていくのでしょうか。