連載コラム

連載コラム:伊東道生の『<頭>で飲むワイン 』 Vol.71 2017.05.09

またもや春の嵐

 四月末にボルドーを襲った雹(ひょう)と低温のため、2017年は少なくとも30%の収穫減となる。1991年以来となるこの天候被害は、114000haのAOC畑のうち、半分以上に及ぶ。被害額は10億ユーロ――このところ、毎年といっていいほど春に報道される雹と嵐による被害ですが、RVFのネットニュースによると、今年は例年に増して、多大なものになりそうです。
 雹は、4月20日と21日の夜、また27日と28日の夜にメドックからソーテルヌに至るボルドーの60000haを襲いました。葡萄生産にどのような影響を与えるかを評価するのは今のところ時期尚早で、5月末か6月はじめ頃には分かるだろうし、花が咲くか、再び芽がつくか――この場合、収穫減は確実――などを見なければならないが、収穫量の低下は否めないだろう、とボルドー・グランヴァン連盟(FGVB)所長Yann Le Goasterは語っています。
 被害はばらつきがあり、10%から100%にまでわたるが、ジロンド圏域では被害に遭わなかったところはない。メドックの南、とくにマルゴーでは80%から100%、同じような被害は、ラランド・ドゥ・ポムロール、ブライエ、コート・ドゥ・ブール、そしてペサック・レオニャンもまた同様。サン・テミリオンでは70から80%で、わずか25%の栽培家しか保険に入っていなかった、とYannは語っています。とくにアンジェラスやシュバル・ブランも被害を受け、シャトー・ラ・ドミニク、シャトー・コルバンあたりでは50%から100%もの被害。対策として、暖房具やヘリコプターも用意されましたが、この時期としては極めて低温の零下1°C から3、4°Cまで下がり、対策も効果無し。
 被害に対して、地方当局、政府、保険会社、銀行が協力して事に当たることが予定されています。またボルドー・ネゴシアン協会のジャン・ピエール・ムエックスは、生産者のために、2016年の収穫の葡萄を樽につき100ユーロ値上げして買い上げるとしています。(「パリのレストランで、グラン・ヴァンをお手頃価格で」という企画をしたくらいですので、ムエックスさん、小売価格に転嫁しないでね。)
 ボルドーはもっとも顕著ですが、被害はフランス全域にまで広がっています。今年は三月と四月の天候が良く、例年より十日ばかり早く芽がはやくつきはじめ、弱い花芽が雹にやられてしまったという、よくあるパターン――温暖化によって春先が暖かく、花芽が早くつき、これまた温暖化による天候不順が雹と氷雨をもたらす――です。
 ボルドー近隣ではカオールやガイヤック、フロントンをはじめとする南西地区、コニャックで数千ヘクタール。さらにラングドックでは20000ha。オード県やエロー県の被害が甚大で、コルビエール、カバルデ、マルペール、ミネルヴォワでは場所によって100%にまで。ラングドックからピレネーまでのオクシタニー地域圏では26日から「とんでもない=例外的」な雹に見舞われ、10%の葡萄畑が破壊されました。ところによっては30%に及びました。エロー県地区の農業協会代表 Jerome Despeyは、その被害の様子を、こう語っています。「今朝、私たちが見た光景は完全に焼けた=グリルされた葡萄の樹だった。」―― 雹によって葡萄の葉や花芽がすっかり落とされ(これがグリルされたという表現になっています)、ただ、葡萄の幹と枝だけが残っている惨状です。
 ローヌでは南の地区がやられ、とくにコート・デュ・ヴァントゥとリュベロン。またジュラ地方でも100%の被害を受けたところも。ジュラではとくにきびしい低温でした。
 シャンパーニュではコート・ドゥ・モンターニュ、シャトー=ティエリ、コート・デ・バールが35%ほどの被害。(ついでながら…シャンパーニュのアンリオがオレゴンのドメーヌ・ボーフレールを購入したそうです。余談でした。)
 ロワールではトゥーレーヌがひどいようです。ヴーヴレイやモンルイでは七機のヘリコプターを飛ばして、大気をかき混ぜ、雹を飛ばして被害をくいとどめています。おかげで昨年ほどの被害はないですが、それでも15%から20%の畑には影響が出そうです。おまけにベルギーにも被害は拡大。ドイツについては、どうなのでしょう、残念ながら、ニュースはありません。
 別の記事では、ロワールで用意されたヘリコプターは、14機となっていますが、実働したのが7機なのでしょうね。費用は1haあたり200から250ユーロなので、3万から4万ユーロかかるところもある、とモンルイのDamien Delecheneau氏は言っています。何しろ物入りです。
 さてブルゴーニュのニュイとボーヌ地域ではロワールと同じく、毎年の被害に対してヘリコプターや暖房具、水の散布などで対策しましたが、シャブリの35%に被害です。ブルゴーニュでは何年も続く収穫低下、昨年もまた天候不順のため(記事では、天候の大惨事=カタストロフとまで言っています)、さらなる収穫減を避けるために、雹と夜間の低温、霜対策として夜の間、わらを燃やす、とブルゴーニュ・アペラシオン・葡萄栽培家連盟(CAVB)が宣言。実際に4月27日と28日に実行され、火は29日の朝まで燃えていたようです。火災の危険もありますが、煙で高速A6を通る自動車にとって視界不良になることも事前に知らされました。なかなか大変です。
 フランス大統領選挙はマクロン氏が勝ちましたが、EU加盟がもたらす、工業、農業、とくに零細企業、農家へのダメージがル・ペンの票を呼びました。スペインやイタリア産のワイン輸入への反対デモも起きています。政治経済、天候など、フランスのワインをめぐる状況はますます厳しくなりそうです。