連載コラム

連載コラム:伊東道生の『<頭>で飲むワイン 』 Vol.74 2017.08.25

2017の収量減と2016プリムールの評価

春の雹雨のおかげで、フランスは「歴史的収穫減」-2017年の収穫見込みは、2016年比17%減、過去5年比16%減の3760万ヘクトリットルと、フランス農業省の発表がありました。同じ被害に遭った1991年よりもさらなるダメージ。南西地区、とくにボルドー、シャラント、アルザス、ジュラがとくに被害を受けました。ブルゴーニュ・ボジョレー、ラングドックも同等で、地中海では結実不良coulureもおこり、とくにローヌのグルナシュにこの現象が著しい、と。

コニャックのようなオー・ド・ヴィのためのワインも収穫減の影響を受け、31%減の536万ヘクトリットル、2016年は772万ヘクトリットル、2012からの過去五年の平均値は821万ヘクトリットルでしたので、かなりなものです。

AOPワイン(そういえば、AOCではなくなったわけですね。RVFでもわざわざappelation d’origine protegee と記してあります。)は、2016年が2009万ヘクトリットルだったのが、12%減の1845万ヘクトリットル。一方、IGP(こちらもindication geographique protegee と。これもヴァン・ド・ペイではない、とばかりに!)前年が1280万ヘクトリットルだったのが、15%減の1089万ヘクトリットル。その他の日常ワインも390万ヘクトリットルが、27%減の290万ヘクトリットルに。

こういう状況に対して、1992年の世界ソムリエ優勝者のフィリップ・ホウル=ブラックPhilippe Faure-Brac氏は「八月が葡萄をつくり、九月がワインをつくる」という名言を唱え、収穫期までの気候が関係するのだから、結論を早急に出すことはない、量はともかくも、質に関しては、と言っています。1991年が良くなかったのは、雹ばかりではなく、収穫期の状態も惨めだったからだ、とも。

希望としては、シャブリやシャンパーニュのような地域で取られている「リザーブ・システム」です。2016年のような偉大なミレジムでは、地域によっては量も質も確保出来ているはず、とフィリップ氏は続けていますが、すべての地域でこのシステムが実行されているわけではなく、フランス全体の25%にとどまるというのであれば、かなり厳しい見方になっても仕方がありません。国立AOP/AOC委員長であるベルナール・ファルジュ氏は、ストックがほとんどなく、過去にも困難な状況に陥ったところもある、と明かしています。8月4日には農業大臣ステファーヌ・トラベール氏がボルドーを訪れ、被害を視察。ボルドー・ワイン協会では、40%減とも推測しています。

一方、シャンパーニュでは、天候に恵まれ、収穫時期が、8月末というシャンパーニュの歴史上では最も早い収穫のひとつになるだろう、という予想が出ています。今年は栽培者にとって大変容易な年で、良い質が望みうる、とシャンパーニュ栽培組合長マキシム・トゥバール氏は報告しています。シャンパーニュ地域でも今年の春、オーブやモンターニュ・ドゥ・ランスなどでは雹に見舞われたものの、5月半ばからの好天のおかげで葡萄の樹は緑になり、健康そのもの。栽培者もネゴシアンも一致して、haあたり10,300キロを収穫、500キロのリザーブとあわせてhaあたり10800キロとなるとの見通しです。ひょっとしたら、この記事を皆さんがお読みになる頃には、収穫間近かもしれません。

さて、こうした2017年はさておき、2016年のフランス・ワインはどういう評価でしょうか。昨年も雹の被害がありました。例年通りRVF誌は、地域ごとのプリムールの状態を評価しています。

まずアルザスでは、ピノ・グリが最高の仕上がり。作り手だけを挙げると、Domaine Bott-Geyl, Albert Mann, Jean Beckerなどが挙がっています。またシルヴァーナーはコスパがよいと。グラン・クリュレベルでは総じて18点と高評価です。

ボジョレーでは、「ガメイは、天災に打ち勝った」という見出しで、全般に高得点です。とくに、モルゴンは、10年はもつだろう。Bret Brothers, Domaine de la Chaponne, Guenael Jambonがなかでも18点以上です。その他の地区Brouilly, Fleurie, Moulin-a-Ventも高評価です。良く出来た年代物のガメイは、思いがけず、素晴らしい素質を発揮しますので楽しみです。

ボルドーはグラン・ミレジム。夏が「ウルトラに暑かったultra-chaud」ので、過熟成気味だったのですが、面白いことに、9月半ばの雨が、それを救った!と。価格過剰なボルドーですが、ボルドー、もしくはボルドー・シューペリウールもお忘れなく。17点以上のシャトーは、Gree Laroque, de Reignac, Jean Faux, Le Pin Beausoleil(いずれも赤)、コート・ドゥ・ボルドーでは、Domaine de L’A(赤)、 Hostens-Picant(赤白ともに)、フロンサックではFontenil, Haut-Carles です。ボルドー・クリュ・クラッセの表をみると、すべて15点以上で、ソーテルヌを除く辛口白ワインがわずかに評価は低いですが、赤は軒並み、高得点です。その中で、19-20という点ではなく、ずばり20点がひとつ、Vieux Chateau Certainです。

ブルゴーニュもよい評価です。雹による被害で量は減少(おかげでますます高騰)、しかしニュイの赤、とくにグラン・クリュはかなりの出来です。しかし見事に3桁以上、最低15000円くらい(今、ユーロ高ですからね)、手が出ません。というわけで、ここではコート・シャロネーズを紹介します。Givryでは、Domaine de Callier aux Moines, Pascal Damjean-Berthoux, Vincent Lumpp, Domaine Mouton、白ではPigneret Fils RullyではDomaine de Rully Saint-Michel(赤)、Belleville, Gouffier, Claudie Jobard, Maison Luois Max。MontagnyではLaurent Cognard, Berthenet。MercureyではFramcois Raquillet, Charton, de la Franboisiere, Michel Juillot, Maison Antonin Rodet, Thelot-Juillot(赤)、Château d’Etroyes, Gouffier, Patrick Guillotです。またマコン、サンヴェランのJean-Yves Larochette, Saumaize-Michelinも17.5点です。

それ以外の地域では、17点以上があまりありません。やはり昨年も雹の影響がそれなりに尾を引いたのでしょうか。コルシカ(PatrimonioのGiacometti, Clos Signadore, IGP Yves Leccia)ラングドック(PIC Saint-LoupのChristophe Peyrus)、ロワール(ここが一番被害を受けました。サンセールのVacheron赤白ともに Vincent Pinard赤白ともに、Alphonse Mellot赤白、Delaporte白、ソーミュールのDes Roches Neuves赤、ヴーヴレイのHuet)、プロヴァンス(バンドールのDe Terrebrune, De la Tour du Bon赤、レ・ボー・ドゥ・プロヴァンスのHauvette赤)ローヌ(Chateau-Grillet、コート・ロティはいい出来です。Jamet, Stephane Ogier, Les Vin de Vienne, Pierre Gaillard、エルミタージュもよい出来。Chapoutier, Cave de Tain、サンジョゼフのBernard Gripa, Pierre Gonon、シャトー・ヌフ・ドゥ・パプではChateau Rayas, Clos du Mont-Olivet, Tourbillon, Le Vieux Donjon Du Banneret, Jerome Gradassi)

2016年は、ビオ栽培家にとっても困難な年だったようです。収量減を覚悟するか、涙を飲んでビオ農法をあきらめるかの二者選択を強いられたとRVF誌は報じています。その中で、おすすめのビオはDom. Isabelle et Denis Pommier(Chablis)、Etienne Simonis(Alsace Riesling)、Comte Abatutti(VdF Faustine)、Andre et Mireille Tissot(Arbois Savgnin Amphore)、Camin Larredya(Jurançon Au Capceu)、Clau de l’Eu(Anjou-Villages Magellan)、Chateau Les Jonqueyres(Blaye Cote de Bordeaux)、Confron-Coteditot(Echezeauxこれだけ100ユーロ 他は高くて45ユーロ、10台がほとんどです。このドメーヌは、確かに安くはありませんが、ブルゴーニュのドメーヌのなかでは、それでもまだ<良心的な>値段です。) Chateau Thivin(Cote de Bruouilly)、Chateau de Caraguihes(Corbieres Boudenac)の10本です。

日本でお目にかかるドメーヌもあれば、見たことがないところもあります。フランスにいらっしゃることもあるでしょうし、ご参考までに。