連載コラム

連載コラム:伊東道生の『<頭>で飲むワイン 』 Vol.80 2018.02.09

~ビオ・ワイン・サロン~

寒い日が続きます。みなさま調子はいかがでしょうか。還暦を過ぎるとあちこちと不具合がおき、寒さもこたえます。と言いながら冷えたシャンパーニュは必須なのですが・・・。

さて、ビオ・ワインは現在ではかなり一般化し、わざわざ、とりたてて言うこともないほどにはなってきていますが、市場からするとまだ付加価値があるのでしょうか、それとも一般的に実際の知名度あるいはビオを行っているドメーヌとの結びつきが希薄なのでしょうか、フランスでは今も何やかやとビオ・ワインのサロンが開かれています。今年はモンペリエで1月29日から31日にかけて開かれました。

フランスの有力新聞の一つである『フィガロ』紙には、南フランス―Occitanie、いわゆる南仏のオック語を話す地域―の拠点であるモンペリエこそビオ・ワインのサロンMillesime Bioの開催に相応しいという記事が載っています。というのも、モンペリエはラングドック=ルーションとミディ=ピレネーをつなぐ要衝で、葡萄作付面積の35%と1599箇所ものビオ・ドメーヌを誇るフランス一のビオ・ワイン生産地だからです。このサロンに世界から1000の生産者、5000のバイヤーが参加しましたが、ビオ・ワイン市場はまだまだのようで、伸びしろがあるようです。そもそも全体としてみたところ、ビオの葡萄畑もそう多くはなく、ここ8年ほどで増えてきたに過ぎません。そして乾燥し、太陽に恵まれた南仏を中心としている、というのが『フィガロ』の評です。フランス農業省の発表では2007年には14600haだったものが、2016年には57000haに増えています。消費の面でも上昇しています。

実はビオ・サロンは25年も続いていて、フランス・ワインがメインなのですが、ヨーロッパの15カ国、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ、チリからも出品されています。すべての出品者はまったく平等に扱われ、看板やテーブル、グラスなども同じで、人目を引く小細工はなし、というわけです。試飲テーブルも、地域やアペラシオンごとに分類されていません。『フィガロ』はこの平等主義をegalitarismeと呼んで、ビジターは指標もなく混乱し、あっちこっちと引き回す効果があると評価しています。もちろんこうした方式は、このサロンに限った話ではないですが。ちなみに「看板enseigne」にまつわるフランス語の諺があります。A bon vin point d’einseigne.「よいワインに看板はいらない」です。エチケットで飲むな、ということでしょうか。エチケットも手がかりなのですがねえ。

RVF誌もこのサロンについての記事を掲載しています。サロン開催の前の出版なので、事前情報と注目株を告知しています。出品されるワインは2015年モノが多いので、まずその情報から。フランスでは2015年は非常に太陽に恵まれた年で、暑さも厳しく、ブドウはときに過剰なまでに熟成をしました。イタリアやスペイン、ニュージーランドでも同じように暑かった一方で、オーストラリアやアルゼンチンは湿度が高く、その後、夏には太陽に恵まれましたが、収穫期の難しい年でした。試飲の結果、ビオ、とくにビオディナミでは果実味とフレッシュさが際だっていて、熟成がすすむなかで、生産者はうまく酸味を保つことができている、とのことです。RVF誌はワインを8つのカテゴリーに分けて、それぞれ10のワインを推奨しています。そのうちのいくつかをご紹介します。シャンパーニュとブルゴーニュもあるのですが、やはり南仏をはじめ、ローヌおよび地中海地域が数多く挙がっています。

最初のカテゴリーは泡モノです。シャンパーニュ以外にもボジョレーやカヴァもあります。シャンパーニュでビオ、というかビオディナミというと、真っ先に浮かぶのがFleuryです。ビオ認定が1%しかないシャンパーニュのパイオニアでもあります。Robert Barbichonとその息子たちThomasとMaximeがビオ、そして2005年にビオディナミを9haに導入したのが先駆です。RVF誌ではbrut Blanc de noirsが16点(28ユーロ)で挙げられています。その上を行くのがLarmandier-Bernier, Blanc de blancs Vigne du Levant 2009(18点 64ユーロ)―暑い年とCramantのテロワールがきわめて見事にハーモニーを形成した一品。保存すべきシャンパーニュ。Francoi Bedel, Dis Vin Secret(16.5点47ユーロ)―2008年が基本で、ピノ・ムーニエが90%という比較的珍しいシャンパーニュです。他のシャンパーニュでは、Leclerc-Briant(16点40ユーロ)、Robert Barbichon, Reserve 4 cepages(15.5点35ユーロ)、Vincent Couche, Reserve Intemporelle(14.5点38ユーロ)、Cordeuil,brut Origines(13.5点28ユーロ)。

シャンパーニュ以外に挙げられているのは、Domaine Renartdat-Fache,Bugey Cerdon(16点9.70ユーロ)―セパージュはgamayとpoulsard。もうひとつgamay種。Chateau Lavernette, Reserve de Lavernette Grantoi(15点14ユーロ)。Cavaが一つAA Privat 2015(14.5点23ユーロ)です。

地中海の白ワインのカテゴリーもあります。題して「太陽に抗する南の白ワイン」です。ジュランソンのClos LapeyreやルーションのClot de L’Oumなど南西地区、プロヴァンスなどが挙がっています。日本ではほとんど手に入らないでしょうし、輸入業も含め売り手も手を出さないでしょう。 売れ筋にまだ近いのは、「後を追っかけるべきピノ・ノワールとカベルネ(フラン)」というカテゴリーでしょう。と言いながらほとんどがピノ・ノワールです。Domaine Henri & Gilles Buisson(Corton Le Rognet et Corton 2015(17点70ユーロ)、Domaine Albeet Morot. Beaune 1er cru Vignes 2015(17点29ユーロ)。カベルネ・フランではChateau Fosse-Seche, Saumur Eolithe 2015(15.5点16ユーロ)、Agnes et Xavier Amirault,Sain-Nicolas-de-Bourgueil Le Fondis 2015(15点18ユーロ)です。

そのなかで珍しいのはオーストリアのWinzerschlossel Weingut Kaiser,Autriche Neusiedlersee-Huhelland,2015です。ウィーンの南に1977年に誕生しました。わずか4haですがピノ以外にもシラーやカベルネ、メルロを育てています。2015年以来目覚ましい成長、との評価です。

ただ残念なことに、このドメーヌの紹介に関して「ドイツ帝国のピノ un pinot allemand imperial !」と、あまりよくない言葉で飾っています。数年前、編集も代わり、読者にさんざん批判をうけたマリー・ルペンにインタビューするくらい、RVF誌自体がかなり右傾化している証左でもあります。

19世紀後半フランスやイギリスに比べて統一国家を果たせなかったプロシアは、オーストリアを含む「大ドイツ主義」をあきらめて、プロシア主体のドイツ帝国の独立を果たします。20世紀になってオーストリア出身のアドルフは、ローマ帝国、神聖ローマ帝国(中世のドイツ―東フランク王国)に続く「第三帝国」を目指し、オーストリアもドイツに併合されますが、とりあえず現在ドイツとオーストリアは国家としては異なります。オーストリアのピノであって、ドイツのピノではありません。こういう言い回しはかえすがえすも本当に残念です。

それから言うと、ビオディナミの創始者シュタイナーにも、けっこう胡散臭い話がつきまとっています。時代のせいでは済まない話です。個人、個体よりも環境という全体を優先し、「環境ファシズム」と揶揄されるように、環境保護思想が持つ危険な部分です。もう一つ残念なことは、こういう歴史や思想史が忘却されてしまっていることです。ルドルフ・ヘスやヒムラーなど、ビオディナミ好きのナチス幹部のけっこう多く、しかも戦後生き残った連中が、けっこうビオディナミを支持し、その声明が影響を与えていたことなども、すっかり忘れられています。食料・農業大臣リヒャルト・ヴァルター・ダレー(1895-1953)は『血と土からの新しい貴族』(1930)を出して、この本はナチの聖書とまで言われます。彼は、ナチスとして戦後裁判にかかりますが、反ユダヤ主義の実践に関わっておらず、1950年に恩赦で出獄します。その後、カール・カールソンという筆名で死ぬまでの三年間、西ドイツのビオディナミ農法の普及運動に貢献したとされています。

閑話休題。

先に挙げたシャンパーニュが点数としては18点で最高ですが、それに続く点数が並ぶカテゴリーは「保持(garder)すべき10本」です。シャトーヌフ・ドュ・パープのDomeine de Saint Prefert, Reserve Auguste Favier 2015(17.5点48ユーロ)、Domaine D’Aupihac, Languedoc Montpeyroux Les Coc aliers 2015なんと18.20ユーロ!現代ラングドックの原型とまで言われています。ADVの講座で是非試してください。

自分が輸入業者であったら、挙げられているワインの何をとるかは難しいと思いますね。消費者もまだ未熟、というかレストランやワインバーでも、ネット販売でも売れるのは知名度の高い地区ですからねえ。なかなかビオのラングドック、ビオの南西地区ワインというのは売れないでしょうから。これは日本に限ったことではないかもしれませんけど。