連載コラム

おおくぼかずよの「男女の友情は成立するか?それはさておき日本酒の話」 Vol.04 2017_11_10

~IWCとテロワール~

米から造られる酒、日本酒。米はご存知のように穀物であり、ワインの原料であるブドウと違って保存が利くので、東から西へ、はたまた北から南へと長距離を移動させることが出来ます。

今、日本酒業界では注目すべきいくつかの大きな流れがあります。ひとつが、日本のグラン・クリュとも称される兵庫県にある特A地区の圃場で育てられる最高級の酒造好適米“山田錦”で醸す「至高の日本酒造り」。朝晩の寒暖差があり、適度な風が吹き、日照量も十分なこの地区は、昔から高品質の山田錦が収穫され、限られた特A地区産の山田錦は醸造家なら誰しも使ってみたい米として垂涎の的であると言っても過言ではありません。

一方で、酒蔵のある土地で育った米を使い、その土地の水で醸す「テロワールにこだわる日本酒造り」という流れもあります。しかしながら、元々、東南アジアが発祥の地である米は寒さに弱く、加えて、酒造好適米は一般の食米よりも粒が大きかったり、稲の背丈が高かったりと育てるのが難しく、その土地に合わせた品種改良から栽培方法の調整などすぐに結果が出るものではないのです。

そんな中、テロワールにとことんこだわった岩手県二戸市の酒蔵「南部美人」が醸した「南部美人 特別純米酒」が今年のIWCのチャンピオン・サケに選ばれました。IWCとは、ロンドンで毎年4月に開催され、30年以上の歴史を持つ世界最大級のワイン審査会、インターナショナル・ワイン・チャレンジ(International Wine Challenge、以下IWC)のこと。2007年にSAKE(日本酒)部門が創設されて早11年、その認知度は年々高まり、出品酒も増加、今年は過去最高の390社(海外を含む)、1,425銘柄が出品されました。IWCの受賞率は5%未満、受賞した日本酒は世界から注目を浴び、その発信力にかける関係者の期待も大きいのです。そんな狭き門をくぐり抜けた受賞酒の中の頂点、1,425銘柄のトップ・オブ・トップが「チャンピオン・サケ」です。

先日開催されたIWCチャンピオン・サケ受賞祝賀会で、南部美人の久慈浩介社長は感謝の言葉と共に「夢は必ず叶う」と力強く語られました。

南部美人は岩手県二戸市に1902年、明治35年創業。現在の久慈社長で5代目となり、115年もの間、酒造りをされています。久慈社長は以前、NYでの日本酒テイスティングイベントで出会ったアメリカ人のソムリエにこう言われたそうです。

「なぜ、岩手の酒蔵が、兵庫産の米で酒造りをしているのか?」

最初に記したように、日本酒造りに使われる米は移動するものであり、自らの酒質設計に合う米を離れたところから調達してくるというのは珍しいことではありません。久慈社長もそう話されたそうですが、そのソムリエの方は納得されなかったとか。

「海外で日本酒を飲む人はワインが好きな人がほとんど。だからこそ世界で日本酒を伝えていくには、テロワールやマリアージュなど、ワインを飲む人たちに合わせることが必要だ。」

このソムリエとの会話が、岩手・二戸市のテロワールを意識するきっかけになったと言います。

そこから、二戸の酒蔵が、二戸の米で、二戸の水で、二戸の技で日本酒を醸すという「小さな街の大きな挑戦」がはじまります。米は、岩手県オリジナル酒造好適米「ぎんおとめ」、二戸の折爪馬仙渓の伏流水を仕込み水に使い、岩手の南部杜氏の伝統の心と技で醸した真の地酒でこのたび、「南部美人 特別純米酒」はチャンピオン・サケに輝きました。

久慈社長は過疎化のすすむ街の明るい希望になりたいと語ります。「岩手・二戸市の米、水、人、風土、全てを注ぎ込んで醸した南部美人特別純米酒。私が賞を頂いたのではなく、このお酒を醸す事が出来るのは、全て岩手・二戸市のおかげです。チャンピオン・サケの栄光は、南部美人のものだけではなく、岩手・二戸市が受賞した栄光なのです。」

祝賀会の翌日には、酒造りを見学させていただきました。早朝から蔵全体が活気に溢れていたことがとても印象的でした。日本酒も幅広く、瓶内二次発酵によるawa酒やゆず酒もテイスティングさせていただきました。ゆずは県内の陸前高田市産。

「陸前高田市は日本では北限となるゆずが実る街なんです。そのゆずを使って、町おこしをしていこうと思っています。震災の復興にも役立てたい。今まで、ゆずは自然に実っていたのですが、地元では誰も見向きもしなかった。これからは“北限のゆず”としてブランド化していきます。」

久慈社長と言えば、2011年春、東日本大震災の被害で日本中でお花見の自粛が叫ばれていた頃、「酒を飲んでいる場合ではないというのが東北の現状ではあるが、このままでは経済的な二次被害を受けてしまう」「日本酒を飲むことで東北を応援していただきたい」「お花見を自粛してもらうよりもお花見をしてもらった方がありがたい」とYouTubeにアップ、1週間で10万以上のアクセスがあり、メディアにも大きく取り上げられました。被災地のものを消費することで復興を後押ししようというムーヴメントを起こしたあの蔵元さんといえば記憶に残っている方も多いのではないでしょうか。

震災から6年、久慈社長の日本酒造りを地域創生に繋げていく力、そしてそれをやり続けていく力に敬意を表するとともに、「酒は造り手を映す鏡」といわれる日本酒にとってのテロワールとは、気候、土壌、栽培方法、それらに「人」も含めてのものだと改めて実感しました。

昨年度2016年のチャンピオン・サケに輝いた山形県「出羽桜 出羽の里」も山形というテロワールにこだわった美酒。2015年度の福島県「会津ほまれ 播州産山田錦仕込純米大吟醸酒」は播州産の米を福島で酒に醸した美酒。これからの日本酒は、造り手のこだわりによって様々な酒を楽しめる時代になっていくようで、ワクワクしますね!

最後に、いつもパワフル、溢れる笑顔で周囲を明るくしてくれる久慈社長、その久慈社長と一緒に走る素晴らしいチーム南部美人の皆様、このたびの受賞、心よりおめでとうございます!!