連載コラム

おおくぼかずよの「男女の友情は成立するか?それはさておき日本酒の話」 Vol.06 2018_02_23

〜焼鳥と日本酒〜

最近、一般的になってきたレストランでひと皿ごとに合わせるワインペアリングコース。日本酒の世界ではというと、まだそのような提案をしているところはそれほど多くはありません。そこで今回は焼鳥店に注目し、基本的な日本酒と焼鳥のペアリングについてお話したいと思います。

まず、日本酒ペアリングを考えるときは、以下のような点が基本となります。
①同調させて味わいを引き立て合う(イメージ例:ハーブを使った料理にソーヴィニヨン・ブラン種)
②日本酒を料理のソースのように合わせ補填して新しい味を生む(例:フォアグラにソーテルヌ)
③リセット効果、ウオッシュ効果(例:キャビアにウォッカ)
④日本酒そのものを楽しむ(例:升酒に塩)

その他に私は“時を合わせる”と呼んでいますが、非加熱の生酒にフレッシュフルーツサラダ、熟成酒にコンテ24ヶ月熟成など時間軸を合わせることで、香味のバランスのみならず、四季がある日本ならではの旬の魅力を最大限に引き出すことが出来たり、冷酒からお燗酒まである幅広い飲用温度帯を利用してペアリングコースに個性を出すことも出来るのが日本酒の特徴です。

伺いましたのは、東京・白金にある酉玉本館。香港やバンコクにも支店があり希少部位を出す焼鳥店の草分けとして、また美味しい日本酒が楽しめることでも知られています。今回は酉コース(7本)をお願いしました。※コース内容は日によって変わります。

まず、着席すると野菜スティックと大根おろしが出されます。ベジファーストが焼鳥店の嬉しいところ。

1本め
【さび焼き×出羽桜「純米吟醸 軽ろ水(かろみ)」】
ささみを軽く焼いて、わさびを添えた1本。軽ろ水は取扱い店の少ない出羽桜の低アルコール純米吟醸生酒です。淡白なささみに合わせて日本酒も優しい味わいのものを、そしてわさびに合わせて上品な吟醸香を合わせます。1杯めは軽やかに。

2本め
【つくね×残草蓬莱「しぼり立て 純米白ラベル」】
「しぼり立て」は、今の時期ならではの出来たての新酒。フレッシュさとはじけるような酸を楽しめます。つくねはタレですが酉玉のつくねタレは鶏そのものの味わいを引き立てる上品な味わい。熟成酒などではつくねより日本酒が強くなってしまう、かといって淡麗な日本酒では様々な材料を練り込んだつくねに負けてしまう。そこでしぼり立ての生原酒というインパクトのある日本酒をセレクト。

3本め
【ハツ×伊予賀儀屋「別囲い純米吟醸 限定熟成」】
ペアリングでは咀嚼回数も大切なポイント。咀嚼回数が多いものには日本酒もボディがあるものを。よく講座でお話するのはお歳暮にいただくロースハム。ロースハムは薄切りのときと、1センチ以上の厚さに切ったときでは全くお味が変わってきますよね。薄いときは冷や酒やライトボディな日本酒を、厚く切ってソテーなどにしたら、日本酒もフルボディなタイプを。熟成させると日本酒もまろやかになり、味わいに複雑味が出てきます。炭焼きのハツの旨味とバランス良くいただきました。

ここで串以外の一品として、チーズを使ったサラダをオーダー。
【春菊と雪うるいのミモレットチーズ レモンサラダ×菊姫「あらばしり」】
あらばしりとは、お酒を搾るときに一番最初に出てくる部分のこと。熟成の菊姫もこの時期ならで生詰め酒。春を告げる旬の山菜にカラスミにも似た味わいといわれる刻んだミモレット。山廃ならではの乳製品を思わせる香味がチーズとよく合います。

4本め
【砂肝×梅錦「酒屋の女房の盗み酒」】
気になるネーミングですよね!こちらは名前の通り、全国の酒販店の奥様が主体の酒販婦人倶楽部が梅錦さんに依頼して造った日本酒。砂肝のコリコリとした食感を塩で楽しみます。日本酒は米は山田錦と八反錦、穏やかな吟醸香を伴った綺麗な仕上がり。口中を爽やかにリセットしてくれます。

5本め
【軟骨×正雪「秋上がり」52℃で】
お燗酒にするお酒は酸がしっかりしたものや、あまり米を磨いていないタイプ(精米歩合35%<精米歩合60%)がおすすめです。軟骨は、骨なので淡白かと思いきや、骨の周りに僅かについている旨味を多く含んだ肉の部分を忘れずに。秋上がりとは、春に出来た新酒を夏の間に熟成させ秋になって出荷した日本酒。水とアルコールがゆっくりと融和したまろやかさを楽しめます。燗酒にしても霞む事のないこの透明感。杯が進みます。

6本め
【レバー×美冨久「限定 山廃仕込 16BY 特別純米原酒」55℃】
BYとはBrewery Yearの略で醸造年度のことです。つまり10年を越える熟成酒。ほのかにアンバーな色調、カラメルやドライフルーツの香りが温度を上げたことで豊かに広がり、甘味のボリュームも膨らみます。タレのレバーに合わせる日本酒はフォアグラにソーテルヌのようなイメージで。

7本め
【手羽先×群馬泉「山廃本醸造」60℃】
最後の1本は手羽先。タレが別に付いてくるのですが、タレといっても醬油をベースにした大根おろし。微かに香るニンニク、酸味もあり、手羽先が一品料理に変わります。日本酒は燗酒好きなら誰もが知っている群馬泉の山廃本醸造。高めの温度帯で燗につけて、手羽先の脂質を口の中で溶かし旨味を堪能するように。

と、簡単にペアリングについてお話させていただきました。もちろんこちらは一例です。是非、皆様なりのペアリングを見つけて日本酒をより楽しんで下さいね。