連載コラム

おおくぼかずよの「男女の友情は成立するか?それはさておき日本酒の話」 Vol.15 2019_06_14

前回の日本酒コラムで「日本酒の味わいと飲用温度の関係」について書かせていただいたところ、嬉しいことにもう少し詳しく知りたいとの声がございました。日本酒の受験対策講座でも、合格と同じぐらい皆さんが手に入れたいのは日本酒を美味しく飲むノウハウだということが日々伝わってきます。一般的にワインよりも香味のレンジが狭く、テロワールやヴィンテージなどの明確な要素を特徴とする造りをしていない日本酒は、個性を掴みづらいと思われるかもしれませんが、ぴったりと日本酒と料理の相性が合ったときの驚きと感動は唯一無二の瞬間です。いくつかの合わせ方がありますが、今日は普段は日本酒を飲まれない方々でもラベルに書かれている情報からわかる基本的な合わせ方、日本酒と料理のバランスを取る3つのポイントについてお話させていただきます。

「日本酒と料理のバランスを取る3つのポイント」
① どれくらい米を磨いているのか【精米歩合】
② 米の品種はなにか【米の早晩性】
③ しぼりたて生酒か長期熟成酒か【熟成期間】

【精米歩合】
まずは、どのくらい米を磨いているか精米歩合を確認しましょう。精米歩合とは、玄米から表層部を磨いて残った米の割合を%で表したものです。精米歩合60%と40%では、精米歩合60%の方が大きな米です。米の表層部分にはタンパク質、脂質、デンプンなどの栄養素があり、これらの栄養素は適量であれば旨味、複雑味の要素になります。しかし、この栄養素が多過ぎるとせっかくの複雑味は雑味となり舌の上で不快感となります。料理との合わせ方は、料理が淡白ですっきりした味わいには表層部を磨いた精米歩合が低い日本酒を、こってり、濃厚、しっかりとしたお味の料理にはあまり磨いていない精米歩合の高い日本酒を合わせてみましょう。

【米の早晩性】
米に限らず、植物には「早生(わせ)」「中生(なかて)」「晩生(おくて)」という成長の早さを指す早晩性があります。早生は成長が早く、晩生は遅い、中生は中間です。みかんなどは「早生みかん」などとも言うのでご存知の方も多いかと思います。一般的に早生はすっきりとしていて甘味、旨味は弱い、晩生はしっかりとした味わいで甘味、旨味は強い傾向にあります。早晩性は日本酒造りに使用される酒造好適米のうち、生産量トップ4の4銘柄を覚えましょう。1位「山田錦」は晩生、2位「五百万石」は早生、3位「美山錦」は中生、4位「雄町」は晩生です。J.S.A.では早晩性をブドウ品種に例えており、ワインラヴァーの方々にはそちらの方がイメージしやすかもしれません。早生は「ソーヴィニヨン・ブラン」、晩生は「シャルドネ」です。イメージが湧きますか?特にこのトップ4はそれぞれの特徴から、山田錦=ピリュニー・モンラッシェ、五百万石=ロワールのソーヴィニヨン・ブラン、美山錦=ボルドーのソーヴィニヨン・ブラン、雄町=ムルソーと例えられます。料理との合わせ方は、料理が淡白ですっきりした味わいには早生品種を、こってり、濃厚、しっかりとしたお味の料理には晩生品種を合わせてみましょう。

【熟成期間】
使用米の精米歩合や品種だけではなく、熟成期間と料理を合わせるというコツもあります。しぼりたて、生酒など、熟成期間が短い、味わいとしてフレッシュで瑞々しいものには、同じようにフレッシュで水分を含んでいる料理を、反対に熟成期間が長く、外観も褐変化している日本酒には、時間をかけて作られた料理や、しっかりとした味わいの料理を合わせます。例えば、「豆腐」で考えると、しぼりたての日本酒には生姜やシソの葉を添えた「冷奴」を合わせます。薬味も含めて瑞々しいもの同士、バランスが合います。少し熟成させた日本酒には料理にも少しコクを足して「肉豆腐」を。加熱され、肉の旨味も加わった豆腐料理と日本酒とのバランスが釣り合います。濃醇で重層的な味わいの長期熟成酒には、旨味のほかに、苦味や刺激もある「麻婆豆腐」を合わせましょう。燗酒にすれば辛みからくる刺激も日本酒が受け止めてくれます。


いかがでしょうか。これらの合わせ方は基本中の基本、シンプルな合わせ方をお伝えしました。他にも香りやテクスチャ、ソースとして日本酒を合わせるなど様々な料理との合わせ方があります。例えば、シェーブルチーズと大吟醸の日本酒、これはシェーブルに含まれるカプロン酸と吟醸香のカプロン酸エチルを合わせるというものです。この場合、日本酒はあまり冷やし過ぎないことがベストバランスのポイントです。