連載コラム

高橋佳子のセンス・オブ・プレイス_Vol.04(2019_07_05)

オーストリアワインマーケティング協会(AWMB)が主催する「オーストリアワインサミット2019」にご招待頂き、5月下旬、オーストリアへ行ってきました。
「Along the Danube - ドナウ川に沿って」と題したツアーに参加、オーストリア東北部ニーダーエスタライヒ州のテルメンレギオン、トライゼンタール、クレムスタール、ヴァッハウ、カンプタールを訪問してきました。そこで今回は、オーストリアを代表するワイン産地、ヴァッハウのセンス・オブ・プレイスをお伝えしたいと思います。

ヴァッハウ(Wachau)は、首都ウィーンからドナウ川沿いを西へ、車でおよそ1時間。ユネスコ世界遺産の美しい景勝地です。東の入り口であるクレムスからドナウ川に沿って渓谷を西へと入っていくと、右手側に急斜面に築かれた段々畑が見えてきます。
主にリースリングと、オーストリアの固有品種であるグリューナー・ヴェルトリーナーが栽培されていて、それらから生産される上質な辛口の白ワインが世界的に有名です。特にリースリングは、急な斜面の上部の段々畑で生産され、引き締まった酸味と凝縮度の高い風味、ミネラル感と長期熟成ポテンシャルをもつ高品質なワインが生まれます。
ヴァッハウの気候は、小さなエリアの中にマイクロクライメット(微小気候)がみられます。東からパンノニア平野の暖かい空気が渓谷内に届いてくるのですが、ドナウ川が蛇行して渓谷が狭くなるので西に行くほどその影響が届きにくく、冷涼な気候になります。
ヴァッハウでは、ドナウ川が他のエリアに比べて流れがあり、それによって気流が発生するので、川に近い畑は気温の変化が穏やかになりますが、川から離れると寒暖差が激しくなります。

ツアーのプログラムに「ボートライド」との記載があったので、てっきり大きな観光クルーズ船に乗るのかと思いきや、用意されていたのは小さな屋形船でした。前日まで結構な雨が降っていたせいもあってか、水かさがかなり増して流れがあります。川面からヴァッハウの葡萄畑を眺めながらボートに揺られて8種類のワインをテイスティングするという、なかなかエキサイティングな体験でした。

そのあと今度は、実際に葡萄畑の丘を登りました。斜面の下部はレス(黄土)土壌で、グリューナー・ヴェルトリーナーが植えられています。斜面を登っていくと石や岩が多くなり、段々畑になっていて、かなりの急勾配です。汗ばむほどの日差しを浴びながら、丘の中腹、標高300m前後のところまで登ってくると、目下には水嵩が増したドナウ川の水面がはっきりと確認できました。そこで、まさに目の前の段々畑で育った葡萄から造られたリースリングをテイスティングするという、最高の演出です!
そのワインは、ピヒラー・クルツラーのリースリング・リード・ケラーベルク2016でした。ヴァッハウの名門F.X.ピヒラーの娘エリザベスと、ブルゲンラントのクルツラー家出身のエーリヒの夫妻が手がける新世代ヴァッハウで、日本にも輸入されています。

次にヴァッハウのワインを飲む際には、ドナウ川の流れと急斜面の段々畑を思い浮かべてみてください。背の高いフルートボトルと、キャップシールの赤・白・赤(オーストリア国旗)が目印です。最後まで読んで頂きありがとうございました。