連載コラム

遠藤誠の「読むワイン」 Vol.02 2017_08_18

「アンリ・ジャイエのブドウ畑」を読む。

ブルゴーニュワインの神様とも呼ばれながら2006年に世を去ったアンリ・ジャイエ。
彼の造るリシュブールやクロ・パラントゥは伝説になったと言っても過言ではないだろう。この本は、アンリ・ジャイエへのインタビューをもとにした価値のある一冊。

戦後にブルゴーニュでも主流となった合成肥料や農薬。それは収量を増やし、過酷な農作業を軽減する福音と喧伝された。そのなかでアンリ・ジャイエはワインの品質低下を危惧し、昔ながらの伝統的農法の重要性を説いた一握りのヴィニョロンの一人だった。
彼はこの本で、昔話や畑仕事の話を交えながら、孫に教え聞かせるような穏やかな口調で、だが整然と、はっきりと彼の哲学が語っている。それは「自然派」などという言葉で軽々しく括ることのできるものではない。
アンリ・ジャイエのワインを飲む前に(飲んだ後でも)ぜひとも読むべき本だ。

この本でアンリ・ジャイエが語っていた小ネタを一つ。最近ブルゴーニュでよく見かける馬による農耕についてだ。
ブルゴーニュで馬を使うことが一般的になったのは1918年頃以降。しかも馬に代わるアンジャンバー・トラクターが普及したのが1960年代なので、馬の時代はブルゴーニュの長い歴史の中では非常に短かい期間だったという。そもそもフィロキセラ以前は、ブドウが今よりも密植だった(取り木方式だったため。ヘクタール当たり2~5万本!)ため葡萄の株が立て込んでいて馬が入れるような隙間は無かった。馬で畑を耕すのを「昔ながらの」と語る人が多いが、実はノスタルジーに依る勘違いのようだ。

題名:アンリ・ジャイエのブドウ畑
著者:ジャッキー・リゴー
出版社:白水社


「ワイン通が嫌われる理由」を読む。

快著である。ワインに詳しいほど楽しめる本だ。
ワイン通(と思っている人々)を皮肉たっぷりにからかいながら、どのように振る舞えばワイン通っぽく見えるか具体例を挙げながら導いてくれる指南書。さもありなんと思わせるようなワイン通の失敗ネタの数々も紹介されており、スノッブっぽく振る舞う時に参考になりそうで面白い(サンセールを白だと決めつけていたら、出てきたのは赤だったり)。
ワイン会での心構えや、その席で「ワイン通」を撃退する裏技や気の利いた言葉を多く教えてくれる。これを読んでおけば、難しそうなグラン・クリュが飛び交うワイン会でも、敷居が高そうなブラックタイのワイン騎士団でも、参加して緊張することはない(と思う。多分)。
1996年の出版だが、今もって笑える。いつの時代でも半可通は変わらないものだ。

題名:ワイン通が嫌われる理由」
著者:レナード・S・バーンスタイン
出版社:時事通信社