連載コラム

葉山考太郎の「新痛快ワイン辞典」 Vol.02 2017_08_18

葉山考太郎先生が1999年に出版した『辛口・軽口ワイン辞典』(日経BP社)の続編です。ワインに関する用語が、葉山先生特有の痛快な語り口で解説されています。今回は、「い」と「う」で始まる語をお届けします。

【見出し語について】
(1) アルファベットで始まる語はカタカナ表記で配列した。【例】AOC⇒エー・オー・シー
(2) シャトーやドメーヌが付くものは、それを除いた見出し語で収録した。【例】シャトー・ラヤス⇒ラヤス、シャトー
(3) 人名は、「姓+名」で収録した。【例】ロバート・パーカー⇒パーカー、ロバート
(4) 見出し語の先頭に付した記号の意味は以下の通り。
◎:最重要語句 (ワイン通の常識)
○:重要語句 (ワイン通の半数は知っている言葉)
☆:注目語句 (さり気なく使えるとカッコいいネタ)
★:知らんフリ語句 (知っていないほうがよい項目やネタ)
▲:要注意語句 (注意して使わないと、悪口と思われケンカになる言葉やネタ)
×:嫌われ語句、禁句 (1回使うたびに、最低10人から嫌われる言葉)



■い■

ECサイズ (イーシーサイズ)
500ccのボトル。最近良く見かける。一人で飲むのにちょうどいい大きさらしい。750ccのフルボトルより安いので、一瞬、得した気になるが、量が3分の1も少ないので、割安ではない。

イタリアのスパークリング・ワイン
泡物が大好きな私にとって、非常に厳しくツラいワイン。アスティとフランチャコルタが代表的なイタリアのスパークリング・ワインだけれど、手頃な値段のアスティは、チューインガムを12枚まとめて口に入れた気分になるし、辛口で瓶内発酵の本格派、フランチャコルタはシャンパーニュより高い。だから、どうしても、普段飲み用はスペインのカヴァや、オーストラリアの泡になる。

いちばん(一番)
ブルゴーニュの超大型新人、ドミニク・ローランが作るACブルゴーニュのラベルには、斜めの縞模様が入っている。よく見ると、細かく印刷した "numero 1" が縞模様に見えるのだ。「ニュメロ・アン」は、「一番」の意味。ブルゴーニュに来てしばらくは、ヨソ者意識があって、借りてきた猫状態だったが、パーカーが高得点を連発してビジネスが順調に進み出してからは、大胆になったよう。(関連項目:ドミニク・ローラン)

イチャイチャベタベタ
ワイン愛好家の進化と、男女の仲の進化に共通すること。ボールフレンドと付き合いだした当初はイチャイチャベタベタ甘さ180%。二人の仲が成熟すると、クールになり渋い大人の付き合いに変わる。ワインも同じ。夢見るように甘いデザート・ワインや、スッキリ甘口のドイツ・ワインを飲んでワインに一目ぼれし、徐々に食事に合う辛口の白に向かう。次第に軽い赤が気になり、飲むうちにフル・ボディーの渋い赤をウマいと感じるようになった後、時々シャンパーニュに浮気する。これがワイン飲みの進化過程。

いぬはとねこは(犬派と猫派)
人間は、人に付く律義で忠実な犬派と、家に付く自由気ままな猫派に分かれるらしい。ワイン作りも、生産者重視が犬派、テロワール主義が猫派。そう言えば、テロワールを重視するフランス人は勝手気ままな快楽主義者。収穫の最中、猫の手も借りたいときでも平気で休みを取る。

イランシー (Irancy)
シャブリの隣りのアペラシオンで、赤とロゼを作る。言ってみれば、シャブリの赤とロゼ。めったに見ない珍品だけど、それだけ。

いわれなきごかい(いわれなき誤解)
1985年にオーストリア・ワインの不凍液混入事件が起き、とばっちりを受けたのがオーストラリア・ワイン。名前が似ているというだけで、一斉にマーケットから消えてしまったらしい。ホントに迷惑な話。(関連項目:不凍液事件)


■う■

ヴージョ (Vougeot)
特級よりもヴィラージュ・ワインの方が圧倒的に珍しいブルゴーニュの村。ヴージョ村のグラン・クリュは、50haもあるが、村名ワインの畑は5haしかないため、特級より村名の方が稀少という珍現象が起きる。特級の質を考えても判るように、珍しいからと言ってヴィラージュに飛びつく必要は全くない。

ヴァザレリ、ヴィクトル (Victor Vasarely)
1978年のテタンジェ・コレクションのボトルを描いたスイスの画家。目の錯覚を利用した白黒だけのオプティカル・アートが得意で、波がクネクネ動いて見えたり、細かい線をビッシリ描いてチラチラ揺れるような絵が多い。中学校の美術の教科書によく出るが、長い美術史上から見ると、3日間だけ表舞台に立った感じ。(関連項目:藤田嗣治)

ヴァンダンジュ・ヴェルト (Vendange Verte)
文字通りの意味は「緑の収穫」。英語でも「グリーン・ハーヴェスト」と言う。凝縮感のある果実を収穫するため、色づく前にブドウを間引くこと。日本語の「青田刈り」も似た雰囲気の言葉だけど、「青田刈り」は、早く収穫した物を使うことなので、意味は正反対。

ヴァン・ドゥー・ナチュラル (Vin Doux Natural)
文字通りの意味は「自然甘口ワイン」。ワインの発酵中にアルコールを添加して発酵を止め、甘味を残したフランスのワインの総称。オーダーする人はかなりのワイン通。ラングドック・ルーションのバニュルスや、ローヌのミュスカ・ド・ボーム・ド・ヴニーズが有名。デザート・ワインの王者、ソーテルヌに比べると、アルコールが15度と高いのに甘味が控え目で飲みやすい。だから、女の子を酔いつぶし、その隙に勘定書きを押し付けて帰る場合に最適(でも、良い子はしてはイケマセン)。(関連項目:バニュルス)

ウィーンかいぎ(ウィーン会議 )
ナポレオンがかき回して荒れたヨーロッパを再建するための国際会議。1814年に始まり、メッテルニヒが「会議は踊る。されど、まとまらず」と嘆いたように1年近く続く。フランスは、イギリス、オーストリア、ロシア、プロシアにボコボコにされるはずだったが、外相、タレーランは自分が所有のオー・ブリオンを各国代表にバンバン飲ませ、ウマい料理でコテコテ接待。おかげで、フランスは戦勝国なみの地位を得た。この功績でオー・ブリオンが1855年のメドック格付けで地域外から1級に選ばれたらしい。

ヴィルマール (Vilmart)
シャンパーニュの老舗的個人生産者(レコルタン)。年産は7千ケースと超微量。ボディーが大きく、クリーミーでナッツの香りがするシャンパーニュを作る。いわゆる、クリュグ系だ。除草剤を使わず、発酵は木樽。フランス国内に熱烈な愛好者が多く、1990年代の世界的不景気でも、影響を受けなかった。最上級は、1989年から作るクール・ド・キュヴェ(Coeur de Covee)。これは別格。日本にほとんど輸入されないので、見たら死ぬ気で買うべし。(関連項目:幻の三大レコルタン・シャンパーニュ)

ウォーホル、アンディー (Andy Warhol)
フィリップ男爵の顔写真をモチーフに1975年のムートン・ラベルを描いたアメリカの画家。漫画、写真、台所用品を芸術と言い張るポップアートの教祖様。映画『バスキア』ではデビッド・ボウイが、サラサラの白髪頭で気の弱そうなウォーホル役を大好演。自分のアトリエを「工場」と呼び、自由とマリファナを愛す前衛芸術家の溜まり場に。1968年、その中の一人に銃で撃たれた。代表作は、マリリン・モンロー、プレスリー、毛沢東の彩色白黒写真や、キャンベル・スープ缶。「これならオレにもできる」と、以降ゲージュツ家が急増した。

ウォルトナー、シャトー (Chateau Waltner)
メドックの超名門、ラ・ミッション・オー・ブリオンのオーナー、フランシス・ウォルトナーが1983年に突如シャトーを売却し、ナパのハウェルマウンテンに開いたワイナリー。思い切りの良さにビックリなのに、未経験のシャルドネだけを生産する大胆さ。先達のいない大リーグへ単身乗り込んだ野茂英雄以外の日本人には真似できない。同ワイナリーの看板ワインが「タイタス」。飼い犬の名前で、ラベルの木の下に印刷した黒い点がタイタス君らしい。

うなぎ(鰻)
コート・デュ・ローヌの赤みたいに、スパイシーで土の香りのするワインと妙に相性の良い食べ物。サンテステフも合うはず。ちゃんとした鰻屋は、客が来てから鰻を裂き始める。江戸の粋な遊び人は、そんな鰻屋の離れで逢引きをしたそう。軽く酒を飲み、誰も来ないのをイイことに、イチャイチャネバネバ。頬の上気がおさまり、手鏡で髪のほつれを直すころ、鰻が焼き上がるという仕掛け。ウフフフ。

うめはるもの(梅春物)
ファッション用語。梅が咲く時期から桜が散る数週間に着る春先の洋品のこと。ワインでは、さしずめ、ロゼ・シャンパーニュ。コルクを開けただけで春が来そう。

うりちにあらず(売地にあらず)
謎のメッセージ。空き地を有刺鉄線で囲い「売地にあらず」と書いた看板を立て、そこに持ち主の名前と電話番号もデカデカと併記している場合、「高けりゃ売るよ」との謎かけ。レストランやワイン・ショップで「非売品」と表示した超古酒が飾ってある場合もこれと同じ。本当に売る気がないんなら、奥にしまって見せないか、相場の10倍くらいの値札を付けて誰も買わないようにするはず。

ウルトラ・ブリュット (Ultra Brut)
甘味を全く加えない超辛口シャンパーニュの一般名称。通好み。しっかり冷やすと、ほんのり甘味を感じるらしい(添加糖分は0~3g/リットル)。ローラン・ペリエ社のもの以外、ほとんど見かけない。