連載コラム

葉山考太郎の「新痛快ワイン辞典」 Vol.10 2018_06_22

葉山考太郎先生が1999年に出版した『辛口・軽口ワイン辞典』(日経BP社)の続編です。ワインに関する用語が、葉山先生特有の痛快な語り口で解説されています。今回は、「せ」で始まる語をお届けします。

【見出し語について】
(1) アルファベットで始まる語はカタカナ表記で配列した。【例】AOC⇒エー・オー・シー
(2) シャトーやドメーヌが付くものは、それを除いた見出し語で収録した。【例】シャトー・ラヤス⇒ラヤス、シャトー
(3) 人名は、「姓+名」で収録した。【例】ロバート・パーカー⇒パーカー、ロバート



せいぜんせつ(性善説)
「ワインをマズく感じるのは、品質が低いせいではなく、価格設定が異常に高いため」という考え方。「世の中にマズいワインはなく、値付けが間違っているワインがあるだけ」が基本思想。私も、典型的な性善説派で、どんなワインを飲んでも美味い。

せいと(生徒)
ある道を究めるために勉強する人。ワイン学校の生徒には、ワイン愛好家だけではなく、スチュワーデス(フライト・アテンダントを意味する古語)やワインオタクも多数在籍。8割を占める女生徒を狙って受講する「下心オジサン」も多く、ワインをダシにした誘惑作戦も花盛り(こんなオジサンは、ワインには超級敏感だが、身だしなみに気を遣わず、立派な鼻毛をたくわえているため、女子から嫌われる)。変わりどころでは、卒業してすぐ自分でワイン学校を開く元生徒さん。ワイン・スクールは、ノウハウや顧客を獲得する場でもあるらしい。(関連項目:学校、授業)

せいまいぶあい(精米歩合)
米の外側は、食べる場合は旨味成分になるが、日本酒を醸造する場合は雑味になる。この部分をどれだけ削ったか(業界用語で「砥ぐ」)を表す言葉が精米歩合。80%の精米歩合は、20%を取り去ったこと。特定名称により精米歩合が規定されており、純米大吟醸、大吟醸は50%以下、純米吟醸、吟醸、特別純米、特別本醸造は60%以下、純米、本醸造は70%以下でなくてはならない。50%以下だと、米粒は仁丹みたいに丸くなる。ヒエー。(関連項目:特定名称の清酒、パーカー銘柄の日本酒)

セーニャ(Sena)
チリの名門、エラスリス社が作るボルドー系の超高級赤ワイン。「ヴィニェド・チャドウィック」「ドン・マキシミアーノ」とともに、「エラスリス三銃士」と言われる(私が勝手に言ってるだけデス)。「チリのワインは、安い割には美味い」と世界中で言われて、負けず嫌いのエラスリス社のチャドウィック社長は、「世界レベルのワインも作っているぞ」と大反発。ヨーロッパの著名なジャーナリストを集めて、ブラインド試飲会を実施(この時の立会人が、アカデミー・デュ・ヴァンの名誉校長、スティーヴン・スパリュア)。パーカーが100点満点をつけたマルゴー2000をはじめ、ラフィット2000、ラトゥール2000、ソライア2000、サシカイア2000、オーパスワン2000など傑作、逸品、超弩級の中に、「三銃士」を加え、試飲・採点した結果、セーニャ2001とヴィニェド・チャドウィック2000がワンツー・フィニッシュを飾る(これが有名な「2004年ベルリン・テイスティング」事件)。セーニャはビオデナミが特徴。モンダヴィとのコラボレーションなので、「チリ版オーパスワン」。

セカンド・ラベル(second label)
ボルドーの有名シャトーが出すワインの中で、シャトー名を冠した看板ワインの基準に満たないものや、若木で作ったワインを少し安く売るもの。ラベルの感じは、ファースト・ラベルとよく似ているが、味わい、香り、雰囲気は、叶姉妹と福原愛ぐらい違うので注意が必要。昔、セカンド・ラベルは安かったが、今では、かつてのファースト・ラベルよりはるかに高価なものが少なくない。例えば、パヴィヨン・ルージュ・デュ・シャトー・マルゴー2011なんて、20,000円を越えている。ロバート・パーカーが100点をつけたシャトー・マルゴー1990を$70で買っていて、それでも、「うわぁ、高いなぁ」と思っていた石器時代の私には、パヴィヨン・ルージュは死んでも買えず、ひそかに不買運動を続けている。

セック (sec)
スパークリング・ワインのラベルでよく見かける言葉。本来の意味は「辛口」だけれど、めちゃくちゃ甘いので注意が必要。ヨーロッパの歓楽街で、「当店では、美女を取り揃えて皆様をお待ちしております」と看板書いてあった場合、自分のオフクロが出てくると思って間違いない。本当に辛口が飲みたいなら「Brut(ブリュット)」と表記したものを飲むべし。

★セニエ (saignee)
日本語訳は、引き抜き。不作の年に赤ワインを作る場合、発酵タンクからブドウ・ジュースの一部を抜き取ること。こうすると、タンクに残ったジュースはより多くスキン・コンタクトができるので、色が濃く凝縮感のあるワインができる。テストで足切りして、優秀な生徒だけ特別選抜クラスに入れて、みっちり仕込むようなもの。なお、抜いたジュースはロゼ・ワインになる。

セルタン・ド・メイ、シャトー(Ch. Certin de May)
ボルドーで最も高価な赤を作るポムロル村の老舗名門シャトー。畑がペトリュスの隣にあるせいか品質は非常に高いが、ペトリュスほどの名声がないのがつらい(ペトリュスも、五大シャトーに比べると知名度は低いが)。かなりプロ好みの赤。ラベルには、「Chateau Certin」と大書した下に、小さく「de May de Certin」と書いてある。普通に読むと、「シャトー・セルタン」だけど、プロはなぜか、「シャトー・セルタン・ド・メイ」と読む。逆に、このラベルを見て、「シャトー・セルタン・ド・メイ」と読める人は、ワイン道の黒帯級。

ぜんこくせいしゅひんぴょうかい(全国清酒品評会)
1907年に発足した日本酒のコンテスト。全国新酒鑑評会が「女を磨くテクニック大会」なら、こちらは華やかな「美人コンテスト」。戦争中の米不足の折り、贅沢は敵だと中断。戦後再開されたが1951年で終わる。「女を磨く」全国新酒鑑評会は、大手メーカーの嫌がらせに会いながらも、ますます盛んになった。(関連項目:吟醸香、全国新酒鑑評会)

ぜんこくしんしゅかんぴょうかい(全国新酒鑑評会)
1904年、酒造技術の研究目的で始まったコンテスト。毎年4月、醸造試験場で開く。全国清酒品評会と異なり、米のない戦争中も続く。大人気の吟醸酒の火付け役がこの鑑評会。アル添酒、3増酒で全国展開していた大手は、手間ヒマかかる吟醸酒と市販品は違うと猛反発。兵庫の大手メーカーは一斉に出品を控えるが、地酒・吟醸酒ブームを無視できず1983年に出品再開。予審を通過すると銀賞(出品の約半数)、決審で選ばれると金賞(銀賞の約半数)。金賞はパリ・ダカ・ラリーでの優勝、銀賞は上位入賞くらいカッコイイのでラベルに大威張りで書く。(関連項目:アル添酒、吟醸酒、3増酒、全国清酒品評会)