連載コラム

葉山考太郎の「新痛快ワイン辞典」 Vol.11 2018_07_13

葉山考太郎先生が1999年に出版した『辛口・軽口ワイン辞典』(日経BP社)の続編です。ワインに関する用語が、葉山先生特有の痛快な語り口で解説されています。今回は、「そ」と「た」で始まる語をお届けします。

【見出し語について】
(1) アルファベットで始まる語はカタカナ表記で配列した。【例】AOC⇒エー・オー・シー
(2) シャトーやドメーヌが付くものは、それを除いた見出し語で収録した。【例】シャトー・ラヤス⇒ラヤス、シャトー
(3) 人名は、「姓+名」で収録した。【例】ロバート・パーカー⇒パーカー、ロバート



■そ■

そうぞうりょく(想像力)
ワインを一口飲んだだけで、ブドウ畑の風景やブドウを潰した女性の脚まで想いを馳せること。

そだてる(育てる)
ソムリエ用語。若いワインを買い、飲み頃になるまで店のセラーで熟成させること。【使用例】「小山君、ボルドーの1995年物はキミに任せるから、じっくり育ててみてくれ」

ソニー・フリーク
ソニーの電気製品の熱狂的なファンのこと。韓国、台湾には、電化製品全てをソニーで揃えようとする人がいて、秋葉原の電気屋で、「ソニーの炊飯器が欲しい」と店員を困らせるそう。同様に、サントリー・フリークもいて、「サントリーの吟醸酒はありますか?」と言う人がたまにいるらしい。(関連項目:吟醸酒)

ソレラ・システム (Solera system)
シェリーを作るときの製法。下ほど古くなるよう500リットルの樽を4、5段積み上げ、下の樽から年に30%ずつ抜き出して出荷する。減った分を次々と上の樽から補充する方式。ワイン式のネズミ講みたい。質を均一化できる利点がある。(関連項目:バニュルス)


■た■

ダッソー (Dassault)
ワインと戦闘機を作るフランスの会社。可動先尾翼式のラファールなど、フランスの誇る新鋭戦闘機をぞくぞく生産しているのがフランスの三菱重工、マルセル・ダッソー社だ。assault が「突撃」の意味なので、米井さんがお米を作っているみたいで、「そのままやんけー」的な名前。サンテミリオンの特級、シャトー・ダッソーはここが所有。ワイン作りで収めた税金を戦闘機作りに使うのだろうか。医者と坊主が協力しているみたい? ダッソー社の戦略は、「ワインは先進国へ、戦闘機は紛争国へ売る」だろうか?(関連項目:航空機産業)

たなべゆみのわいんぶっく『田辺由美のワインブック』
飛鳥出版刊の有名ワイン本。どんなに少なく見積もっても、ソムリエ、ワイン・アドバイザー、ワイン・エキスパートを受験した人の数は売れている本。あれだけの事項をこれだけコンパクトにまとめたのは超エラい。資格受験の第一歩がこの本を買うこと。買っただけで、半分合格した気になるのが不思議。姉妹書が『田辺由美のワインノート』でこちらは問題集。田辺先生、これから『葉山考太郎のワインジョーク:受験勉強で疲れた頭に』を書くので、3部作にしてください。

たましいのシャンパーニュ(魂のシャンパーニュ)
CIVC(シャンパーニュ委員会)がシャンパーニュを4つのタイプに分類したうちの一つ。ボディーが大きくて凝縮感があり、複雑で熟成香が豊かな本格派シャンパーニュ。スペシャル・キュベや古酒のような各社の最高級品の大部分がこのタイプ。価格も最高級で、大抵の料理はこのシャンパーニュに負けて、しもべ扱いになる。華やかだがクセが強いので、好き嫌いがはっきり分かれる。クリュグ、ドンペリ、サロン、グランド・ダーム、RDなど。(関連項目:ボディのシャンパーニュ、エスプリのシャンパーニュ、ハートのシャンパーニュ)

ダボ
樽の真ん中に明けた穴。ダボ穴とも言う。ここからワインを出したり入れたりする。ポプラでできた栓をする。樽の最重要部分なので、カッコイイ名前がついていると思ったけれど、意外に、あか抜けしない呼び名。(関連項目:オーク、オークの木、樽)

タランティーノ、クエンティン (Quentin Tarantino)
アブナい映画を撮る奇才の映画監督。熱狂的なファンが多い(タランティーノ本人は江波杏子の熱狂的なファン)。ロバート・パーカーみたいにお利口そうなオデコがトレードマーク。『フォー・ルームス』の第4話では、タランティーノ自身が傲慢な映画俳優に扮し、ルイ・ドレレールのクリスタルを贅沢に飲み散らすなど、作品にはワインがカッコよく登場するので、かなりのワイン・マニアのよう。これからタランティーノの映画を見る人は、『フェティッシュ』や『リザボワ・ドッグ』から始めよう。くれぐれも最初に『フロム・ダスク・ティル・ドゥーン』を見ないように(これは別物)。

ダリ、サルバドール (Salvador Dali)
1958年のムートン・ラベルを描いた超変人のスペイン人画家。ピンと跳ねたヒゲで有名。夢をそのまま描いたらしく、蚊みたいな足の象など非現実的。パロディも大得意。ミレーの名作『晩鐘』で祈りを捧げる農夫と奥さんを交尾前のカマキリのオスとメスに見立て、オスが帽子で勃起を隠している絵、『たそがれの隔世遺伝』は、なかなかの力作。画家なのに商才があり、同郷のピカソと違い独裁者フランコを支持したので、文化人から村八分。でも、女好きのピカソとは反対に、奥さんのガラ一筋。なお、ムートン・ラベルに描いたラセンの羊には、Daliという字と1958が中に隠れている。原画に書いた年号は1952で、ラベル用に書き替えた。

たるうり(樽売り)
ブルゴーニュの生産者がネゴシアンに売る場合によくあるパターン。ブドウ売りせず、樽に入ったワインを売る場合がほとんど。この理由が良くわからない。ドミニク・ローランによると、ブドウ生産者は一番良いブドウでワインを作って樽に入れ、余ったブドウを果実で売るので、樽で買う方が品質がいいらしい。ドメーヌ・ヴェルジェのギュファンスによると、ブドウのまま売るとワインを作る能力がないと疑われるので、意地でも樽ワインで売るとのこと。だから俺は必ずブドウで買うと威張っていた。どちらが正しいか不明。(関連項目:ドミニク・ローラン)

たわらまち(俵万智)
短歌界の田崎真也。30年前、処女作『サラダ記念日』が大売れし、地方の高校教師から一挙に中央の歌壇へ。由美かおる、松島とも子同様、年を取らないので、デビュー当時と同じ顔。「WINE CLUB 第13号(2001年3月)」でボルドー格付けシャトー94年物を15本試飲し、各々を詠んだ。15本には、味や香りに顕著な違いがなく(私がブラインドで飲んだら、全部外すと思う)、詠み分けるのは超級困難。『ガンときてじわっと広がるうまさかなレオヴィユ・ラス・カーズ黙って飲もう』等、万智ちゃん大苦戦。結局、シャトー物語や周辺話題でかわした。得意の「恋する女心」に絡めれば良かったのに、老舗シャトーに対し不謹慎との遠慮があったのかも。『宝石に味と香りがあったならこんなふうかもシャトー・ラフィット』が唯一万智的。

『タワリング・インフェルノ』 (The Towering Inferno)
ポール・ニューマンとスティーブ・マクイーンが競演する1974年作の古典的パニック映画。超高層ビルで火災が発生。ロマネ・コンティを1ケースプレゼントされた代議士は、階上から消火の水が滝のように流れ込んだため、自分の体を柱に縛るときに、ケースも一緒に巻きつける。映画監督は、物欲に負けた馬鹿な奴を描こうとしたのだろうが、ワイン・ファンには常識的な行動であり、とても切ない。つい、応援してしまう。

たんじょうびプレゼント(誕生日プレゼント)
彼女の誕生日に愛をこめてプレゼントする物。定番はシャンパーニュで、とてもカッコイイ。これには以下のバリエーションがある。①普通の人:シャンパーニュを化粧箱に入れてもらい、リボンを巻く。②勝負をかける場合:シャンパーニュの首にリボンで指輪を巻く。③小金持ちの場合:彼女の年の数分のヴーヴ・クリコ・ピッコロボトル(188cc)をセロファンでラッピングし、籐のバスケットに入れる。④アラブの石油王の場合:彼女の年と同じ数のクリュグのフル・ボトルをワイン冷蔵庫に入れてプレゼントする。