連載コラム

連載コラム:堀晶代の知っておきたいブルゴーニュ&シャンパーニュのエッジなお話し Vol.01 2017_06_23

ブルゴーニュに、もはやバッド・ヴィンテージは存在しない!?

 「ブルゴーニュにおいて、優秀な生産者にはもはやバッド・ヴィンテージがありません。ヴィンテージ・チャートは品質の優劣を語るものではなく、個性の違いを楽しむものです」と、セミナーやあらゆる媒体で話し、書き続けること、ここ10年余り。じっさいにブルゴーニュが正常な四季、つまりごく普通の春夏秋冬を享受できたのは、2009年が最後である。10年以降はとても複雑な天候推移に加え、暴力的な雹害や春の遅霜もあり、それらのニュースを聞いていると、ブルゴーニュは受難続きといった印象を受ける。でも仕上がったワインはどうだろう?どのヴィンテージも、とても美味しい。ひとつ覚えおきたいことは、天候推移の難しさは生産量には影響するものの、ワインの品質の高さとは切り離して考えられるということだ。
 優秀な生産者、と書くと曖昧だが、「優秀」とは近年ますます精度が高くなる栽培技術を持ち、きちんと選果している生産者を指す。とくに選果台が広く普及したことは大きい。選果台と言っても、ブルゴーニュのそれは、大規模で裕福なボルドーのハイテク選果台とはほど遠い。最新のものでも、振動式選果台に各生産者が使い勝手がよいように工夫を凝らしたローテクなタイプ。あくまでも人の目と手で行う作業だ。ハイテクが良いのかローテクが良いのかは分からないが、ブルゴーニュの生産規模や醸造法を考えると、ハイテクは必要ではないのだろう。
 ワイン造りでは時代が変わっても、「より自然に」という言葉が好まれる。農産物なのだから自然を尊敬することは必要だが、「より自然に」という概念には世代交代がある。選果台も同様だ。1993年に初めて選果台を導入したヴォーヌ・ロマネのドメーヌ・ジョルジュ・ミュニュレ・ジブールは話す。ドメーヌを運営するのはマリー・クリスティーヌとマリー・アンドレの二人の姉妹だ。
「当時、ヴォーヌ・ロマネ村で選果台を使っているドメーヌは、3軒しかありませんでした。DRCとアンリ・ジャイエ、メオ・カミュゼです。93年はベト病が発生し、乾燥したブドウを取り除きたくて選果台を採り入れたのですが、周囲からは、『せっかく収穫したブドウを捨てるなんて!今時の若い女性は何を考えているのか分からない』と呆れられ、選果する様子を見に来た人がいたくらいです」とふり返る。「なによりも、祖母など高齢の親戚を説得するのが大変でした。自然の恵みは余すことなく大切に使うというのが、昔の『より自然に』という考え方。祖母には、『おばあちゃんがフルーツタルトを作るときに、腐ったフルーツは使わないでしょ。ワインも同じことよ』と説明しました。今でこそ、自然なワイン造りとは健全なブドウを使うこと、という考えが浸透していますが、とらえ方は時間をかけて変わっていくものです」。
 2月に来日した新進気鋭のミクロ・ネゴス、シャントレーヴの栗山朋子さんも、ブルゴーニュ・ファンにもっとも伝えたいこととして、「近年の天候推移の不安定さが、市場には品質のマイナスイメージのように受けとめられますが、それは違います。発酵槽に入れるブドウは品質が高く、健全なもののみを選び抜いています」と、キッパリと話していた。それは収穫時期のドメーヌの醸造所を見て廻っても、納得のできる言葉だ。
 先日、あるカリフォルニア・ワインのインポーターの方と話していたら、「カリフォルニア・ファンもヴィンテージにこだわる人はいますが、大多数はヴィンテージの個性として楽しんでいますね」と分析していた。ブルゴーニュは時代と共に変化している。消費する側の意識も、「ヴィンテージは優劣ではなく、個性の違い」と変わっていけば、楽しみの幅もより広がっていくのでは?と思っている。だって、農産物なのだから。