連載コラム

連載コラム:堀晶代の知っておきたいブルゴーニュ&シャンパーニュのエッジなお話しVol.03 2017.09.22

〜霜害と、2016年と2017年のブルゴーニュ〜

いろいろなSNSで、8月の終わり頃からブルゴーニュのワイン関係者より収穫を控えた様子が伝えられ、9月に入ると収穫まっただ中の画像やメッセージを目にするようになった。大規模な春の霜害と、その後の病害対策に疲れ切った昨年とはちがい、今年は「とってもキレイなブドウでしょ!」という楽しさが感じられる。陽気な収穫を迎えられることは、ブルゴーニュ・ファンの一人としても嬉しい。

とは言っても、今年もブルゴーニュには春の霜害のリスクはあった。ブルゴーニュのみならず、今年のフランスワインの生産量は霜害により、戦後もっとも低くなるのではと推測されている。ただしブルゴーニュにおける被害は、コート・ド・ニュイ以南は昨年に比べると随分と低かった。これは「昨年と同じ轍を絶対に踏まない!」という、ブルギニョンの固い結束の賜だといえる。春の霜害に心の準備ができているヨンヌ県とは異なり、昨年のコート・ド・ニュイ以南のヴィニュロンたちは、1981年以来とも言われた大規模な霜害に対して、丸腰に近かった。しかし今年は4月20日に急激な気温の低下が予報されると、ヴィニュロンたちは霜対策の燃焼法(ろうそく、藁や木を燃やす)、送風法(ヘリコプターなど)、散水氷結法などに必要な物資を買い集め、早朝から畑に立った。こういう時のフランス人の困難に立ち向かう逞しさは素晴らしい。早朝のまだ暗い中、ブドウ畑を炎と煙が囲う風景は幻想的で、SNSでは画像とともに、「Solidarité(団結)」という言葉であふれかえっていた。

日本とフランスで過ごしていると、四季の気温変化の不安定さは、フランスの方が辛い。フランス語には「4月中は糸1本も脱ぐな(薄着は禁物)」という諺があるが、ブルゴーニュでは5月13日頃までは霜のリスクがあるという。8月に革ジャンが必要な日もあれば、春先にノースリーブでOKな日あり、衣替えという概念がない。それに加えて一方では近年の温暖化があるので、ブドウ畑の芽吹きは30年前と比べると1ヶ月近く早くなっている。ブドウ樹が春先の陽光を謳歌して早く新芽をつけた後に、いきなり気温が零下に下がることが、春の霜害の被害を拡大させている。今後も霜害に対する備えは、必要になっていくだろう。

ところで昨年は、霜害で大幅に収穫量を失った後、とくにベト病拡大への対策が必須だった。ブルゴーニュでビオを実践している生産者は、認定を受けていない生産者も含めるとかなり多いが、収穫量を確保するためには、ビオでは対応できなかったケースもある。たしかに冷涼で多雨だった初夏は畑を健全に保つのが難しかったが、それでもビオを完遂できた生産者たちは言う。

「ベト病対策の最初のボルドー液散布は、新芽が5~6枚に開く頃にしなければなりませんが、霜害があまりにも凄まじかったので落胆し、このステップを諦めてしまった人が多いのです。あとから撒いても効果は低い。天候だけの問題ではありませんでした」。

またベト病に感染した葉や果実は切り落とすだけではなく、畑に菌を残さないために、葉やブドウをビニール袋に入れてすべて回収したり、雨でぬかるんだ畑へトラクターを入れずに作業するには、文章には書ききれない膨大な労力が支払われた。ビオを貫いた生産者はもちろんのこと、真摯に畑に向き合うと、ゴールが見えない苦しさがあったのが昨年だったのだ。

だから今年の明るいSNSは、素直に安心して読める。ちなみに2016年のベイビー・ワインは樽からテイスティングしているが、生産者たちが「苦労が報われた」と話す素晴らしいもの。2017年も期待ができそうだ。