連載コラム

連載コラム:堀晶代の知っておきたいブルゴーニュ&シャンパーニュのエッジなお話し Vol.15 2019_05_31

もはや春の風物詩!?ブルゴーニュの春の霜害対策

前回のコラムでは、ブルゴーニュにおける「異常気象、それとも地球温暖化?」について書いた。このコラムを書いているのは5月下旬だが、結論としては今年のブルゴーニュでは早い春の始まり(温暖化)→異常気象(4から5月にかけての厳しい寒の戻り)という流れで、生産者の春はとても忙しいものとなった。要約すると、暖かく早い春はブドウ樹の生長を促し、発芽後の厳しい寒の戻りが霜害対策を強いることとなった。

とにかく今年のブルゴーニュは、芽吹きが早かった。発芽が早かったことにより、この時点で多くの生産者が本格的な寒の戻りを警戒した。結果的には4月14日に零下4度にまで下がるとの予報が流れ、コート・ド・ボーヌのサヴィニ・レ・ボーヌ、シャサーニュ・モンラッシェ、ムルソー、オーセイ・デュレス、ピュリニー・モンラッシェ、サン・トーバンの8つの村で、公的機関に藁を燃やす許可が申請された。ろうそくを点けたり、送風用のタービンを回すことで、2016年の悪夢は逃れられたものの、局所的な被害は報告されている。生産者の口からは、「春の霜害対策は、ここ数年は風物詩のようになっている」という声を聞く。畑に早朝の暗い中から火などが灯される風景は幻想的で美しいとは言え、生産者にとっては繁忙期に徹夜の作業を強いられることになるので、たまったものではない。

またこの間、ラングドックでは雹を伴う嵐が3度も観測され、ロワールでも霜害が見られた。

ブルゴーニュにおける激しい寒の戻りは、5月になっても再来した。7日には再び零下となり、生産者は霜害対策に追われた。歴史的には霜害のリスクは5月中旬まであると記録されている地だが、実際に5月に零下になることは稀で、温暖化に異常気象が追い打ちをかける形となった。近年の収穫量減には、さまざまな要因がある。ひとつは優秀な生産者が「量より質」にシフトしていること。だがこれ以前に、温暖化よる「早い育成」と、異常気象による「早く生育したブドウ樹に襲いかかる寒の戻り(霜害)」や、雹などの豹変する天候推移も、近年の収穫減の一因だ。これはブルゴーニュの価格高騰にも関係している。

かつてのブルゴーニュの収穫時期は、10月に差しかかることも普通だった。だが近年は8月に収穫を開始することも珍しくはない。これも温暖化と関係しているのか。これに関しては、一概には言えない。今も昔も、一般的には熟成庫は地下のカーヴ(自然に低温が安定している)なので、熟成庫に問題はなかった。しかし醸造庫となると、地上のものも多く、近代のようなエアコンによる温度管理や、発酵槽ごとに温度をコントロールするのも難しかった。各村の長老は言う。 「ブドウの熟度が最高に達していても、またその後に、ブドウの腐敗を招く秋の長雨が予測されても、もし外気が高ければ醸造庫や発酵槽を冷却する術がなかった。高温で醸造すると、ワインは簡単に酢になってしまう。たしょうブドウが傷んでもワインとして醸造できるか、高温下で酢にしてしまうのかは、難しい選択だったが、外気や醸造庫の気温が落ち着くのを待つのは、当時の正しい選択肢だったと思う」。

とにかく「地球温暖化」と「ワイン造り」を一元化して話すことは難しい。その中で、ここ数年のスパンで言えることは、温暖化はブドウの成熟期の熟度を上げる点ではメリットにはなっているが、春の到来の早さが生産量を左右していることも顕著な傾向だ。