連載コラム

連載コラム:伊東道生の『<頭>で飲むワイン 』 Vol.39 2014.07.14

夏のワイン

 そろそろフランスではバカンスの季節。地中海を夢見て(地中海に住んでいる人はどうするのでしょう)、心もそぞろ、仕事も手につかない、というのは過去の話で、今ではずらしてバカンスをとったり、<それなりに>まじめに夏も働いたりしています。レストランもわりと開いているし、かつてはホテルまで休んでいることもありましたが、それもさすがにみかけません。
 とはいえ、Revue du vin de France誌は、6月頃からだんだん冊子が薄くなり、お決まりのエノツーリズムの紹介の別冊子がつきますが、本誌はぺらぺらになります。そのときの特集は「夏のワイン」です。それとともに、バカンスではせ参ずるラングドックやプロヴァンスのワイン特集、さらに地中海ワインというカテゴリーでイタリアやスペインワインを含めることもあります。
 最近のラングドックは、かなりしっかりしたワイン(お値段も)を産出しているので、必ずしも夏には向かないのも多いのが難ですが、この際、ある意味、無名なラングドックを応援する意図もあるのでしょうか。それに、2013年は、ラングドックはすばらしいミレジメになったので、若いとはいえ、いいワインが飲めるかもしれません。日本であくせく働くわたしたちには、あまり関係がないと言えばないですが。
 もう一つ。ヨーロッパで夏を過ごすと、カフェやそれほど立派でないレストランで軽い食事をとると、判で押したようにロゼが出てきます。一般にロゼは、二流ワインの扱いですが、湿気が少なく、日差しが強い地中海にはふさわしいものです。パリでもロゼがやたら出てきた記憶があります。今はそれも変わってきていますが。
 というわけで過去も含めRVF誌で取り上げられた「夏のロゼ・ワイン」を紹介します。
 マルゴーの御大とも、ワインの法王とも呼ばれ、彼の言うことを信じれば、シャトー元詰め(mise en bouteille au château)をはじめた先駆者アレクシス・リシーヌ。その息子、アレクシス・サッシャ・リシーヌが、プロヴァンスで生産する「世界最高値のワイン」-90ユーロにもなります-、シャトー・デスクランChâteau d’Esclans。サッシャ・リシーヌが、このシャトーを購入したのが2006年。生産量が少なく、なかなか手に入りません。ADVでも手に入りませんでした。フランスで手に入れたら、日本で高く売れるかも。RVF誌の評価では、ただ一つの欠点が価格!という評価です。種類は4つあります。Côte de Provence Rosé, Côte de Provence Whispering Angel, Côte de Provence Les Clans, Côte de Provence Garrus です。

 他に常連で、よくお目にかかるのが Château Simone, Plette です。果実味があり、ロゼと思えない豊かな味わい。 これは手に入ります。
 名前だけ挙げると、プロヴァンスでは
Château La Tour de L’Éveque. Pétale de Rose
Château Rasque, Clos de Madatrme
Domaine Tempier, Bandol
Clos Saint Vincent, Bellet Le Clos
Château Sainte Roseline

 ラングドック=ルーションでは
  Domaine Medeloc, Collioure cuvée Fornaell
Domaine Alain Chabanon. Langudou Rosé Tr emier
Mas d’Auzière , Languedoc Les Éclat


 フランス語は、大きく言うと、南北で言語が異なります。オイル語と呼ばれる北の地域の言葉と、オック語と呼ばれる南の地域です。「はい」にあたるフランス語は、「ウイoui」ですが、それは古語の「オイルoil」が変形したもので、一方南では「オックoc」と言っていました。フランスは中央集権の強い国なので、オイル語系統が「標準」フランス語として確立された後、南のオック語は弾圧されます。どこの国でもありますが、「標準語」という人工言語を基準に、それ以外の言語を方言とし、方言を話す人は自らを恥じ、話す人が減少し、そのうち古語をとどめている地方語が消滅していきます。オック語も存続の危機にあります。
 ラングドックは文字通り、オックのラング(英語で言うランゲージ=言語)です。Vin de Pay d’OC(ヴァン・ド・ペイ・ドック)のエチケットでも目にしますね。オック語を、フランス語で、occitan オクシタンと言います。その女性形がoccitane。化粧品や石けんのお店の名です。「オクシタン」は、プロヴァンスのお店ですが、そのプロヴァンスでも、ワイン関連で独特な言葉遣いがあります。ブルゴーニュやシャシャンパーニュで、メゾンmaisonと言う言葉を使いますが、これはもともと「家」という意味です。そのメゾンを、とくに地域の伝統様式の家を、プロヴァンスでは、「masマ」と呼びます。ラングドック・ワインを高級にし、毀誉褒貶(きよほうへん)も激しい Mas de Daumas Gassac もそうです。今月のRVF誌では、ガサックを80年代から批評しています。ガサックは、ロゼも出していましたが、最近見かけませんねえ。

 つづいて、これもなかなか日本では手に入らない、コルシカ。最近、コルシカでは、ビオ栽培が盛んになっています。
 Clos Venturi, Vin de Corse
  Clos Teddi, Patrimonio
  Domaine de Torraccia,Patrimonio

 コルシカ島は、いまもかなり物騒ですが、ナポレオン・ボナパルトの出生地ですね。日本では、ナポレオンですが、フランスでは、ボナパルトです。例の、ボルドー格付をしたパリ万博時代の為政者、ナポレオン三世の名とダブルからです。上にあげた銘柄の名前を見てもわかるのですが、コルシカは基本的に、イタリア文化圏です。イタリア語によく見られるように、単語が母音で終わっています。これもあって、フランスからの独立気運が強くみられます。言語が異なる、つまり文化圏の異なるアルザス、コルシカ、バスクでは独自の圏域を維持する-ときに過激になりますが-風潮があります。

 夏と言えば、シャンパーニュというのも考えられますが、しっかりしたものはつらい、というわけで過去のRVF誌では、夏用のシャンパーニュを選定したこともあります。こちらは、手に入りやすいでしょう。
 Francis Boulard, Pierre Peters, Pol Roger, Diebolt-Vallois, Pascal Doquet,
André Jacquart, Benoît Lahaye, A.R.Lenoble
ロゼでは
 Veuve Founrny, Pierre Paillard, Ruinart, Tarlant

夏はこれからです。ロゼで乗り切りましょう。