連載コラム

連載コラム:伊東道生の『<頭>で飲むワイン 』 Vol.65 2016.11.12

ボルドーの価格など

 最初は前回に引き続いてボルドーの話を少し。先月のメルマガでは触れませんでしたが、主要55シャトーの2000年から2015年までの 価格表がRVF誌に掲載されています。その表題はこうあります-「ほとんど信じられないが、これは真実である。素晴らしいミレジムの2015年は、価格は上がっていない。今こそこれを利用する時期だ。」2010年に比して、平均で35%価格が下がっているというのです。表題通り、にわかには信じられませんが・・。2010年のプリムールで価格が思いっきりつり上がったことからすれば、まあ、そうかな、という感じなのでしょうか。2010年の価格を見ると、オーゾンヌがトップで1600ユーロ、ラフィットが1420ユーロ。(ただこの表はポムロールが掲載されていないのペトリュスの価格は反映されていません。)それからみると確かに下がっていますし、この表で挙げられている55のシャトーの平均値から言うと、2010年が238.46ユーロ、2015年は155.86ユーロとなって、たしかに35%低下です。ただし、2014年と比べると59%も値上がりしていますが、これはそもそも葡萄の出来が影響していることもあります。
 39%減というのは平均値なので、そのなかでも2010年に比べて価格を上げたものも下げたものもあります。平均より下げたものは、オーゾンヌ(-54%)、シュヴァル・ブラン(-40%減)―ひょっとしてサン・テミリオンの格付けのごたごたに巻き込まれて価格変動が大きくなったのでしょうか。出来の良かった2000年、オーゾンヌはまだ304.20ユーロでした。高いながらもボーナスを奮発すれば買える値段です。それが2005年には780ユーロになり、2009年に1400ユーロ、2010年に2010ユーロ。2015年にはたしかに半分以下ですが、それでも744ユーロ。シュヴァル・ブランも同じ価格変動です。249.60ユーロ、936ユーロ、2010年は1250ユーロに跳ね上がり、2015年はオーゾンヌと同じ価格になります。サン・テミリオンで言うと、フィジャックも同じです。2000年は62.40ユーロ、2009年は210.60ユーロ、2010年は239ユーロ、2015年は144ユーロとなっています。全体としてもサン・テミリオンは少なくとも同じ価格変動をしていますし、ボルドー全体も概略的に言えば、同じようです。コス・デストゥネルは、2000年は74.90ユーロ、209年に273、2010年に281ユーロと上がり、2015年は169ユーロで、2010b¥年に対しては40%下がっています。ラフィットも、187.20、1200、1420となり、2015年は576ユーロで59%減です。ただサン・テミリオンでもアンジュリュスは132.60ユーロが273、311と上がり、2015年でも352ユーロと13%上がっています。パヴィも、171.60ユーロが、249.60、311と上がり、2015年でも352と、同じく13%上がっています。これははっきり格付けのせいでしょうね。その他、人気のないソーテルヌもクリマンが、2010年に樋31%減の67.20ユーロ、スュドゥイローが4%減の62.90ユーロとなっています。
 平均価格で見ると、2010年度でさえ、二桁73.48ユーロです。それが2005年に128.62ユーロに上がります。2009年には197、2010年は238.68ユーロにもなります。そして2015年は155.86ユーロ。ここ当分、というよりもこれから永遠に平均価格が二桁に戻るのは、よほどのことがない限り無理でしょう。
 1990年以降、とくに90年代半ばから「濃い」ボルドーが流行りだし、2000年代に入って中国市場の参入で、投機価格に天井知らずなほどに上がった値段、ボルドー・ワインというもの自体、とくにクリュ・クラッセはワインではなく、投機対象もしくは珍品に成り下がった、三桁、300ユーロのワインを、今ではしばしば目にしますが、よく考えるとワインの価格としておかしすぎます。まして4桁となると・・・クリュ・クラスのシャトー、ネゴシアンなどは、ワインをどういうものと考えているのでしょう。<経営哲学>を疑問に思います。というのが、ここ30年のボルドーについての個人的感想ですが、皆さんはいかがでしょう。

 つい先だって、アメリカ大統領が決まりました。「もう、アメリカには行けない」と嘆くワイン関係者もいますが、アメリカの保護主義政策が実行に移されるとなると、ワインの輸出入にも影響がでるでしょうねえ。
 そのトランプですが、ワイナリーをもっているのをご存じですか。ネットRVFの情報では、三男のエリック・トランプがヴァージニア州に所有しているそうです。皮肉にも、ヴァージニア州は49.74%の得票でヒラリーが勝利をおさめた州です。かつてKluge Estateであったワイナリーを2011年に買収し、エリックは世界で最高のワインを作る、と父親譲りの大言壮語を吐いています。
 80ヘクタールの畑では赤に関しては、ボルドー品種を、白に関してはブルゴーニュ品種、スパークリングワインに関しては、シャンパーニュ品種を植えているという、セパージュはいかにも<普通>です。