連載コラム

連載コラム:伊東道生の『<頭>で飲むワイン 』 Vol.77 2017.11.24

~戦後最大(最小?)の・・・~

「生まれ年のワイン」を買いませんか、という宣伝を見たことがある方は多いでしょう。私は、そういうとき、いつも1959年生まれだったらとか、1961年生まれだったらとか、と思います。私の誕生年ではシャトー・ラトゥール9点、シャトー・オーブリオン12点、シャトー・ムートン・ロートシルト6点・・・笑っちゃいます。ディケムとかも駄目そうです。さて、戦後の最悪の年とも言われた、この年は何年でしょう。ちなみに日本が国連に加盟した(12月18日)年で、戦後、世界で承認される国になり、いわば高度経済成長の走りとなる年です。

正解は・・・1956年です。戦後最悪の年です。当然、生まれ年のワインは飲んだことがありませんし、飲む気もおこりません。戦前のワインなら19世紀産も含めて、結構飲みましたが、1956年は御免被りたいです。「いや、良かった」という人がいらっしゃれば、何を飲んだか、是非お教えください。

ところで、この1956年は、ワインの質だけでなく葡萄の収穫量も最悪だったのですが、2017年の収穫量はこれに匹敵するほどの量にとどまりそうです。

国際ワイン協会(OIV)によれば、前回でのワイン産出量は、昨年比8.2%減の2億4670万ヘクトリットルになり、「この数字は、雹に襲われた1956年に比す、歴史的数字」になる模様です。

イタリアでは3930万ヘクトリットルで、23%減、フランスは3670万ヘクトリットル、19%減、スペインは3350万ヘクトリットル、15%減。この三国はほとんど世界のワインの45%を産出するので、上記のような結果になりました。

これ以前に発表されたフランス農業省の数字では、イタリアが21%減、フランスが19%減、スペインが15%減ですから、それよりも少々ですが数値が悪くなっています。この数値に基づくと、過去5年に対し、EUでは14%減としています。収穫減をもたらした原因は、春の雹と夏の乾燥で、そのため葡萄の果実が小さくなり、その結果、ワインとなるべき果汁も減ったということに由来します。EU内でみると、ドイツは800万ヘクトリットルで微減、ポルトガルは660万ヘクトリットル、ルーマニアは530万ヘクトリットル、オーストリアは240万ヘクトリットル、ブルガリアは140万ヘクトリットル、とこちらは微増。しかしながら伊仏西の減少のため、戦後、最小の収穫量と見積もっていました。

ボルドーでも当然収穫減で、経済的影響は2018年から2019年に現れる見通しです。また価格が高騰するのでしょうか。質に関しては、辛口白はそこそこのようですし、赤ワインも香り高く、果実味があると言っています。もっとも低評価は誰も口にしませんから、話半分に。

一方、世界4番目の産出国であるアメリカは2330万ヘクトリットル、昨年は2360万ヘクトリットルでした。カリフォルニアでは山火事被害があり、葡萄畑への影響が懸念されたものの、限定的なようです。火災は12%の葡萄畑に影響を与えてはいますが、森.林火災が主でした。上の数字は、それは考慮していないとのことです。 

5番目の産出国オーストラリアは1390万ヘクトリットル、2016年比6%増で、ここ3年増加し、輸出でも5番目、世界の7.2%になっています。

南アメリカでは、2016年がよくなかったため、2017年は増加傾向。

ここで問題。世界で産出量6番目にあたる南米の国はどこでしょう。

チリ? 違います。もう一度チャンス・・・・

その国は1180万ヘクトリットルを産出。2015年並を回復。ブラジルは、14位で、同じように2016年は悪く、130万ヘクトリットル、2015年は270万ヘクトリットルだったの対し、2017年は340万ヘクトリットルとなりました。

正解は・・・アルゼンチンです。アカデミー・デュ・ヴァンで日々勉強に励む皆さんには簡単でしたかね。

それではもう一問。イタリア、フランス、スペイン、アメリカ、オーストラリア、アルゼンチンときて、7番目はどこの国でしょう。

この国の2016年の産出量は1140万ヘクトリットル、2017年はそれには及ばないも党ですが、正確な数字はわかりません。

正解は・・・中国です。これも簡単でしたかね。

次の国はどこでしょう?

南アフリカです。1080万ヘクトリットルで、2015年に対して2%増加となっています。

アフリカと言えば、フランスの植民地だったところが多く、パリでよくチュニジア料理(いろいろなクスクス料理、強烈な甘さのお菓子、ミントティー・・懐かしい)やチュニジア・ワイン(だいたいロゼ)を食べたり、飲んだりしたものです。そのチュニジアでは、サハラ砂漠から地中海に向けての熱風、シロッコが長い間続き、葡萄の収穫量が、2016年には3万トンであったのが、2017年は2万5000トン、ワインで言うと18万ヘクトリットルになったようです。シロッコは18日間も続き、70年ぶりの被害だそうです。肌とかぼろぼろになりそうですね。

では最後の問題です。推測になりますが、OIVが発表し2017年の世界のワイン消費量はどれくらいでしょう。上に挙げたいろいろの数字から最も近いものを選んでください。

正解は・・・2400から2450万ヘクトリットル。結局、産出した分を飲んでしまうわけですね。実際は、それより以前のものも飲むわけですが、ここしばらく続いているストック・ワインの減少も考えると、ワイン生産も自転車操業になりかねないかもしれません。

ワインの常識として、よくない年のワインは早めに飲む、というのがあります。問題は、いつまでを、「早め」と言うのかです。個人的経験ですが、1984年のボルドーは悲惨な年でした。それでもムートン、タルボ、ラグランジュは10年経ってもけっこうよかった記憶があります。今は、難しいかもしれませんが、1956年と異なり、機会があれば飲んでもいいかも、と思っています。この年はメルロがとくに駄目でカベルネ主体のムートンはまだましだったようです。ラグランジュなどは、カベルネの比率が多くなり、それまでとは、そして、それ以降とも違った個性を出していて、一部でむしろ人気がありました。なかなか面白い時代でした。なにしろ安かったし・・・。2017年のボルドーは、おそらく価格も上がって、こんな楽しみも出来ないのかもしれません。