連載コラム

連載コラム:伊東道生の『<頭>で飲むワイン 』 Vol.84 2018.06.08

~悪天候とボルドー・プリムールなど~

春から初夏に入り、梅雨も、間近です。うっとうしい雨の季節とはいえ杉花粉、檜花粉がなくなり、花粉症が治まるのでそれはそれでいい面もあります。パリにいる友人はマロニエの花粉で鼻がグズグズすると言いますので、温帯気候では花粉症は普遍的なことなのでしょうか。で、この時期のワイン話題といえば、ボルドー・プリムールです。

と、その前にブルゴーニュの話題。スイスのジュネーブにあるBaghera Winesのオークション(6月17日)に最後のアンリ・ジャイエがでます。

http://www.bagherawines-henrijayer.com/en/the-sale/

"Domaine Henri Jayer, the ultimate sale".と銘打って、"La derniere vente"最後の販売という文言も着いています。

金不足か、ワインに興味なしか、二人の娘LydieとDominiqueが1064本のワイン(そのうち209本がマグナム)、1970年から2001年のミレジムを売りに出します。ワインはジャイエの個人カーブというか、熟成具合を観察していた研究室(?)所蔵で、父の記憶のために愛好家が購入し、飲んで欲しいと娘たちは付け加えています。

なかには、もちろんCros-Parantoux(ヴォーヌ・ロマネ・プルミエール・クリュ)という世界で最も高いワイン!も入っています。いくらになるのでしょう。

購入はアラブか中国?ジャイエはとくにアングロ・サクソン系、つまり英米系で人気があったので、そちらの方面でしょうか。オークション主催者は、アジアやアメリカの投機者、ヨーロッパのコレクショニストと考えているようです。

Cros-Parantouxのマグナム(1978-2001)は15本あり、評価額は、237,000ユーロから480,000ユーロ、と高級外車も真っ青な値段です。おまけに飲んだらそれでおしまい。トータルの売り上げは570万ユーロから1100万ユーロの見込み。ジャイエは繊細で素晴らしいワインではありますが、しばしば「ハズレ」もありますので、大きな賭けです。

RVFのサイトにも詳しく載って居ます。 

http://www.larvf.com/vin-henri-jayer-bougogne-cros-parantoux-vente-aux-encheres-geneve,4573350.asp
469 bouteilles & magnums Vosne-Romanee 1er Cru, Cros-Parantoux 1978 à 2001
9 bouteilles & magnums Richebourg,Grand Cru 1973 à 1987
42 bouteilles & magnums Vosne-Romanee 1er Cru, Les Brulees 1973 à 1987
187 bouteilles & magnums Echézeaux, Grand Cru 1976 à 1999


TOP LOT (#160)
Verticale de 15 magnums de Vosne-Romanee 1er Cru, Cros-Parantoux, de 1978 à 2001
Estimation : entre 243 282 et 417 133 euros

TOP LOT (#202)
Verticale de 12 bouteilles de Echézeaux Grand Cru, de 1976 à 1999.
Estimation : entre 34 761 et 69 522 euros

TOP LOT (#93)
12 bouteilles Vosne-Romanee 1er Cru, Cros-Parantoux 1985.
Estimation : entre 104 283 et 173 805 euros

ジャイエの話が長くなりました。さて2017ボルドー・プリムールです。RVF誌の評価は、「雹による被害にもかかわらず、2017年はクラシックなスタイルのよいワインとなった」。ただ、良いワインの前に「いくつか」という形容詞付きなので、総じてあまり良くなかったということです。またずいぶん前に有坂さんに教えていただいたのですが、「言うことがないと、すぐクラシックと言うのよ」。ということなので、期待薄です。実際は、トップクラスの評価は高いのですが、15-16点が多く評価は低めです。

2017年4月27日、28日は忘れられない夜になりました、というのが冒頭の言葉です。それまで順調だった春の気候が突然、1991年以来の悪天候に見舞われ、ボルドーに大打撃を与えました。例えばソーテルヌのChateau Climensは生産を取りやめていますし、Chateau Fieuzalもリリースしないことを発表しています。と、ここで今年もまた大荒れのニュースが入ってきています。

5月30日シャンパーニュは嵐と雹で1800ヘクタールもの被害をうけ、葡萄畑全滅のところも出ています。これまでも被害に遭い、ストックのワインも減っているので生産量下降・価格上昇のおなじみパターンになりそうです。ボルドーでも6000から7000ヘクタール、「たった2分で50万ユーロを失った」と嘆く生産者もいます。コニャックに至っては7万ヘクタール以上で、昨年に続く大打撃です。

2017年プリムールに戻ります。雹の被害は全般に及んだものの、メドックではマルゴーがとくにひどく(17点以上はChateau Margaux, Palmer, Rauzan-Seglaの三つのみです)、ポーイヤックとサン・テステフは比較的まともだそうです。(とはいえ、17点以上は、LafiteやPichon-Longueville Baronをはじめ7つ、Calon SegurやCos D'Estounelなど7つ-と低調傾向は否めません。)春の雹の後、天候は回復し、6月はとても暑く、幾つかのシャトーでは2015年か2016年並の素晴らしいワインが期待できたのですが、9月8日の天気が、この楽観的展望を、文字通り「洗い流して」しまいます。

サンテミリオンでは多くのクリュ・クラッセのワインがグラン・ヴァンの生産をやめ、生産量自体もかなり落ち込んでいます。かなりセレクトして購入すべき、と評価されています。とはいうものの、AusoneやLa Gaffeliereなど9つのシャトーが18点以上の評価です。なおAngelusはビオロジック(オーガニック)栽培に転向することを公表しました。

ポムロールもサンテミリオン同様です。Chateau LAfleurとPetrusは18点以上ですが、あとは軒並み16-17点です。

ポーイヤックとマルゴーは先ほどの通り。話題としては、Brane-Cantenacは白を出すそうです。

サン・ジュリアンもよくないですね。Ducru-BeaucaillouとLas Caseが18点以上で、15-16点がほとんどです。

ペサック・レオニャンも大きな被害を受け、生産量が落ちています。とはいえ、Hau-BrionやLa Mission Haut-Brionをはじめ7つが18点以上で検討しています。白ワインはHaut-Brion、Smith Haut Lafite、Misson Haut-Brion、Chevalierが18点以上です。

ソーテルヌは、Climensの被害に反してかなり高評価です。Coutet、Fargue、Lafaurie-Peyraguey、Suduiraut(ホテルとレストラン建設工事が始まり、ミシュランの星を狙うそうです)、D'Yquem、Raymond-Lafon、La Tour Blanche(セミヨンとムスカデルが50%づつの2016 premium がリリースされるようですが、正式名称は決まってない模様です)

といったところが2017年ボルドー・プリムールの情報でした。

最後に再びブルゴーニュ話題。半月ばかり前の発表なのでご存じの方も多いでしょうが、DRCがCorton-Charlemagneを生産することになりました。これでル・モンラッシェと並びブルゴーニュの白ワインのトップを握ることになります。DRC自身は畑を持っていないので、Domaine Bonneau du Martrayから2.8ヘクタール分を借りての生産となります。ドメーヌとしてはビオディナミ農法を守りつつ、グラン・ヴァンの生産ができるということでDRCに白羽の矢がたったようです。