連載コラム

連載コラム:伊東道生の『<頭>で飲むワイン 』 Vol.88 2018.10.19

~ボルドーあれこれ~

最も高いワインのひとつペトリュス、実際はそこを運営するムエックスが資本の20%をコロンビア出身のアメリカ人投資家Alejandro Santo Domingoに買われました。50億の資産があり、モナコ公国のグリマルディ家とも縁戚関係があるとか。ムエックス家とドミンゴ家とは昔からつきあいがあり、両家のつながりを密にし。ペトリュスの発展を長く支えるものとなる。とジャン・ムエックス氏。2億ユーロが支払われたらしく、1ヘクタール8700万ユーロという報道もあります。すごい価格です。さすが、ペトリュス。

かなり前になりますけどDRCに高島屋が介入するときなどは典型でした。有名シャトーやドメーヌに外国資本が侵入あるいは売却されるとき、なんやかやと言われます。RVFネットでは「フランス人は歯ぎしりをする」と表記しています。クロ・ド・タールの売却以来、外国人投資家の介在は5度目とか。ボルドーのWine & Spirits Academy の, Jeremy Cukiermanはむしろこうした売買がスタンダード になると言っていますが、それは当然でしょうね。ただし、ただでさえ天井知らずのワイン価格がこれでまたまた上昇するのはやめてほしいですねえ。

さて、夏のヴァカンスが終わるとRVF誌は分厚くなって、おなじみのワイン祭り特集。CarrefourやAuchan、Monoprixなどフランス中のスーパーマーケットでのお買い得ワインを紹介しています。それこそ、こちらが歯ぎしりしそう。だいたいは、10ユーロ以下で、せいぜい40ユーロまでのワインですが、ボルドー本社のWineandcoでは1991年のディケム(まだ若すぎて飲めません)が290ユーロ。たしかに安い。在仏の日本人の方以外はあまりこうしたスーパーには行かないでしょうが、観光客でも行きそうなのが、オースマン通りにあるギャラリー・ラファイエットのカーヴ。ラファイエット・グルメの二階にあって、450㎡もあります。ボルドーテックというコーナーでは2008年から2010年を主に、1200種以上のボルドーが並んでいます。他の地域もあわせると2800種です。すごいですね。ADVで販売しているワインはどのくらいでしょうか。そこでお勧めです。これは控えめに、Chateau Carbonnix(白)2010です。29.90ユーロ。私も大好きなワインの一つです。

もう一軒。グランド・エピスリー。責任者のHugues Forget氏は飲み頃ワインを提供しているが、2010年以前のものは選ぶのがだんだん難しくなってきている、と。Phelan Segur 2010が54ユーロ。Pontet-Canet 2012が99ユーロ(このワインもすっかり高くなりました。)Les Fiefs de Lagrange 2012が25.90ユーロとなっています。今秋もしくは今冬にパリにお出かけの際は覗いてみてください。

この時期、RVF誌ではボルドー・プリムールの総決算の時期でもあって、2000年以降の各シャトーのプリムール価格の表が記載されています。1991年から始まった価格高騰は、どうにかならないのでしょうか。もはや趣味の飲み物の域を超えています。それとは別に2015年と2016年の伝説的ミレジム評価も記載しています。まあ、こんな若いのを載せられても、私は生きているうちには飲めないのですが・・。これに続く2017年はご存知のように春の雹と嵐でさんざんという対照的なプリムールでした。にもかかわらず、2017年は2015年や2016年ほどではなくても高価格になっています。数字はモノによってばらつきはありますが、ネゴシアンの20%という予想に反し、総じて2017年は2016年比わずかに10%程度しか下がっていません。最も下がったのがTroplong Mondot(Saint-Million)で、2015年119,30ユーロが99,60ユーロと32%減。Clinet(Pomerol)は、79,80ユーロが78,60ユーロと20%減。表を眺めてもたしかに10%減がせいぜい。このところ急上昇のSmith Haut-Lafitte(blanc, Pessac Leognan)は2015年86,40ユーロが2017年は112,50ユーロと12%増。Carmes Haut Brion(同)も61,20ユーロが90ユーロで14%増です。2017年のペサック・レオニャン白が良かったせいもあるかもしれませんが、けっこうな値上がり。Carmes Haut Brionはおまけに2015年に対して47%増。2015年から2017年は47%もあがっています。あ~あ。Haut-Batailleも44%増。

それにしても表を見ると泣きたくなります。Angelus(Saint-Million)は1990年頃一気に値上がりしましたが、それでも2000年は132,60ユーロだったのですね。2015年は352ユーロ、2016年は414ユーロ、2017年は386ユーロ。2.5倍以上です。先に挙げたPontet-Canetは、2000年は35.90ユーロ、2010年にはじめて三桁(137.60ユーロ)となって、しばらく80-90台でしたが、2015年に102ユーロ、2016年はなんと155.50ユーロ。2017年はさすがに下がりました。それでも115.20ユーロ、自然災害にも強いビオなのでしょうか。

値段が高いので気が引けますが、せっかく2015年と2016年のボルドー紹介が載っていますので、少しだけ。とにかく20ユーロ台の安いのを紹介します。まず伝説的2016年から。サンテミリオンではChateau Cote de Baleauが 16点で22ユーロ。15.5点で、Grand CorbinとLarmandeが27ユーロ。ポムロールではLa Patache(15.5点)マルゴーもポーイヤックもソーテルヌ、サンテステフも20台はありません。またなぜかサンジュリアンの記載がありません。

ペサック・レオニャン白では16.5点でOlivier(26ユーロ)、Clos Floridene(16ユーロ)、16点がBouscaut(28ユーロ)、15.5点でCarbonnnieux(28ユーロ)。赤はBouscautが28ユーロ(16.5点)。

2015年はどうでしょう・サンテミリオンではFonroqueが28ユーロで16.5点。同じ点数でGrand Pontetが27ユーロ。Clos des Jacobins(「ジャコバンのクロ」ってフランス革命みたいな名前です。でもジャコバン派ではなく元のドミニコ派修道士のことでしょうね)が28ユーロ。16点でCote de Baleau(22ユーロ)、Chateau de Ferand(26ユーロ)です。ポムロールでは16点でClos du Canton des Ormeaux(25ユーロ)、15.5点でMazeyres(28ユーロ)マルゴー、サンジュリアン、ポーイヤック、サンテステフには20台はありません。ペサック・レオニャン白ではOlivierが16.5点で27ユーロ。おなじく赤は17点で28ユーロです。ソーテルヌはChateau de Mytratが17.5点で26ユーロです。

全般に2016年のほうが高評価ではありますが、2015年はサンテミリオンの出来と、とくにソーテルヌの出来がいいので、当たり前ですが見分ける必要があります。

最後に簡単な問題。RVF誌に掲載されている限りでの2015年と2016年で20点を取ったワインが二つあります。それはどちらの年の、どこのシャトーでしょう。ヒント:サンテミリオンとソーテルヌです。

ソーテルヌはすぐ分かりますね。ディケムです。サンテミリオンは少し迷いますが、オーゾンヌです。ではミレジムは?・・・ともに2015年です。