連載コラム

連載コラム:伊東道生の『<頭>で飲むワイン 』 Vol.93 2019_02_22

~2019年を巡って~

2019年も2月経ちました。RVF誌では年にちなんでいくつかの特集を組んでいます。
まずは10年経ったボルドーの再試飲。サンテミリオン(Soutard, Balestard, La Tournelle)とマルゴー(Issan, Prieure, Siran)で一部雹の被害に遭いましたが、夏の暑さ、太陽の下での収穫、と完璧な葡萄がとれ、プリムールの時から期待されました。アルコール度数もタンニンも申し分ないにもかかわらず、フレッシュでまだまだ先が楽しみです。メドック・カベルネのマジックという表題からもうかがえますが、左岸は最高の出来です。サンテミリオンは一部雹の影響はあったものの、熟成は十分、ときに行き過ぎて地中海ワインに近くなっているところも。ポムロールでもやはり熟成が十分で歴史的とも言えるものと同時に今でも楽しめるモノも。ともかく後10年経ってからもう一度会いましょう、と。すでに伝説になりつつあるソーテルヌ。10年経っても果実味あふれる若さ。ただし23のサンプルの内5本でコルク不良。ペサック・レオニャンに関しては、赤はいいのですが、オー・ブリオンを除いて、白はイマイチです。

というわけで、高得点でひしめいています・・・お値段もそれなり・・を越える高価格。20点満点がラフルール、ペトリュス、マルゴー、ディケムの各シャトー。ペトリュスでは、若い醸造長Olivier Berrouetが父の後を引き継いで最初のミレジム。完璧なワインのお墨付き。3165ユーロ!

19.5点はオー・ブリオン(赤)、ラフィット、ラス・カーズ、ムートン、ピション=ロングヴィユ・バロン(164ユーロが安く思えます)、ポンテ・カネ―2018年はベト病のため、ポンテ・カネを含めデュフォール・ヴィヴァン、パルメはビオディナミが維持できず、薬剤をまいたようです。19点はクリマン、クーテ、スデュイロとソーテルヌ、フィジャック、テルトル・ロトブフ、クロ・フールテのサンテミリオン。それからラトゥールにトロタノワ。

で、実用情報として。この年のソーテルヌはやはり買いでしょうね。値段もまあなんとか。フィローは34ユーロ(17.5点)、オー・ベルジュロン22ユーロ(17点)と、30ユーロ台以下でなんとか買えます。ソーテルヌの不人気のせいでしょうか、RVF誌では鳥のロースト、牡蠣にも、そしてシガーにも合うということです。経験上、古くなれば、さらに合うでしょう。

フェリエール(マルゴー)31ユーロ、グラ・ポンテ(サンテミリオン)31ユーロが17点。お手頃でコスパのいいカントメルル(オー・メドック)16.5点で36ユーロ―醸造長のPhilippe Dambrineはカントメルルのプロフィールを変えるほどのできだと豪語していますので、安いうちに買っておくのがいいでしょう。リストラックのクラーク25ユーロ、フルカ・オストゥン19ユーロ(ともに15.5点)は、それぞれ25、19ユーロ。まだ買える値段ですので、今のうちに。

もう一つの特集は、2009年から10年ごとにバックしてワインと時代を追想する記事です。1939年から49年、59年、69年、79年、89年、99年、2009年。こう並べられると、個人的には89年、ワインとしては79年と89年が思い出深い年です。

89年はフランス革命200年で、ミッテランがバスティーユ・オペラ劇場の開会式を行い、フランスは盛り上がっていました・しかしなんといってもベルリンの壁崩壊の年です。パリにいて当時の風潮を肌身で感じた年です。この年で選ばれたワインはジャック・セロス1989。素晴らしい!そりゃそうでしょう。バンドールのシャトー・サン・タンヌ、ピション=ロングヴィユ・バロン、ドメーヌ・ヴァインバッハのリースリング、シュロス・カン テス・セレクションだそうです。  さて1939年に戻ります。ドイツのポーランド侵攻でナチズム支配の前夜です。映画『風と共に去りぬ』が公開。この年のワインの出来はよくなく、今では探すのは難しいですね。挙げられているのがドメーヌ・カーズ(リヴザルト)。やはり甘口です。抜栓後、数日経っても香辛料やモカの香りが、と言うなかなかのワインのようです。このドメーヌはフランス最大の面積を誇るビオディナミ(220ha)で、今でも良いものをつくっています。他にブシャールのモンラッシェ。
1949年。中華人民共和国が独立した年です。ルロワのシャンベルタンとリシュブール。ドメーヌ・トラペのシャンベルタンも。フィジャック―なんとこの年発酵温度の管理のために氷を入れていた!ディケムも。サンテミリオンやヴォルネイ、ポマール、ソーテルヌは良いようです。
1959年。カストロがキューバで政権を握ります。マイルス・デイヴィスの傑作アルバム『カインド・オヴ・ブルー』。この年は飲んだことがありますが、ボルドー、ブルゴーニュともによく、甘口ロワールは伝説的。お勧めワインはドメーヌ・ロジェ・サボン(シャトーヌフ・デュ・パプ)―このドメーヌも高評価で、とくにシャトーヌフ・デュ・パプ、ル・セクレ・デ・サボンはかなりのモノです。他に今も三つ星評価のドメーヌ・ユエ。ヴーヴレイ・ムル―、ル・モン。グリュオー・ラローズなど。
1969年。アポロの月面着陸。ブルゴーニュとローヌが良かったなかで、挙げられているのがスューデュイロー(ソーテルヌ)。他にシャトー・ヌフ・デュ・パプのドメーヌ・ボールナール、クロ・デュ・モン=オリヴィエ。
1979年。『ドラえもん』が始まった年。江川騒動の年、と個人経験によってしまいましたが、ジュラのワインが最高の出来。日本ではまったく人気がありませんが、三つ星評価のドメーヌ・ジャン・マクルのシャトー・シャロンとコート・デュ・ジュラ。前者の銘柄は今でもお勧め。他にクリュグ1979とクロ・デュ・メニル。(たしかにこれは良かった。)ドメーヌ・ラモネのバタール・モンラシェとアンリ・ジャイエのリシュブール。ペトリュスも良かった記憶があります。
ジュラが人気がないように、ソーミュールも口の端に上ることがないですが、最後にこの話題を。2016、2017といい年が続き、ソーミュールはロワールのトップ・ワインに上り詰めているようです。革新的な作り手も現れ、評価が上がっています。お値段もですが。お勧めを少し。Clos Rougeard, Les Poyeux 2014(19点)、Chateau Yvonne, Le Beaumeray 2015、Domaine des Roches Neuves, Les Memoires 2017(18点)。ソーミュール・ブランでは、Domaine du Collier, Le Charpentier 2014、Domaine des Roches Neuves, L’Echelier 2017(17.5点)。お試しあれ。